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ベンチャー企業向けモノづくり研修の次のステップ「量産アクセラレーションプログラム」の狙いとは?

2017年2月13日

著者:広報M

当社がIoTベンチャー企業を対象として行うモノづくり研修「SHARP IoT. make Bootcamp」について、ベンチャー企業を支援する狙いや実際の研修現場など、過去2回にわたりブログでご紹介してきました。

今回は、「モノづくりブートキャンプ」の次のステップである「量産アクセラレーションプログラム」について、ご紹介したいと思います。

 

 

「モノづくりブートキャンプ」とは、当社が培ってきた量産設計や品質、信頼性確保などのモノづくりに必要な基本技術やノウハウを、当社の現役技術者が講義する約10日間の研修プログラムです。加えて、IoTに欠かすことのできないソフトウェアやサーバー技術、プラットフォームなどを国内データセンター大手のさくらインターネットさんに、スタートアップ※1向け資金調達のコツなどを投資ファンドのABBALabさんに解説いただきます。

※1 スタートアップとは、新規ビジネスモデルの開発により急成長を目指す企業。

IoTベンチャー企業向けのモノづくり研修は、ビジネスが交差する刺激的な場所でした

「量産アクセラレーションプログラム」とは、「モノづくりブートキャンプ」に参加いただいた企業さまの中から、希望される企業さまに対して、量産仕様の決定や工場選定、見積り精査、量産立ち上げ、最終製品の品質確認までを支援するプログラムです。(期間は支援先と協議して決定)

7月に試験的に開催した「モノづくりブートキャンプ」に参加いただいた株式会社tsumugさんが、「量産アクセラレーションプログラム」の第一号となりますので、代表取締役の牧田恵里さん、モノづくり研修を支援いただいている株式会社ABBALab代表取締役の小笠原 治さんにお話を伺ってきました。

 

左 株式会社ABBALab 代表取締役 小笠原 治さん
右 株式会社tsumug 代表取締役 牧田 恵里さん

 

「量産アクセラレーションプログラム」のための「モノづくりブートキャンプ」

――11月に行われた第一回の「モノづくりブートキャンプ」を見学したのですが、研修というよりは、スタートアップとシャープのぶつかり合いというか、戦いというか。モノづくりの最前線の熱量を感じました。今回、「量産アクセラレーションプログラム」をスタートすることで、モノづくり研修は「モノづくりブートキャンプ」と「量産アクセラレーションプログラム」の2部構成になりましたが、この2つの位置づけというのは?

(小笠原さん)モノづくり研修は、「モノづくりブートキャンプ」と「量産アクセラレーションプログラム」があって、初めて成り立つのでは、とシャープさんと話してきました。例えば、シャープさんがいきなりスタートアップの量産支援ってできないはずなんです。相手がどんな企業かわからないし。スタートアップも、シャープさんが言っていることがわからない。とにかく、言葉がまず合わないとどうしようもないと思っていました。これが「モノづくりブートキャンプ」の目的でした。

 

(小笠原さん)例えば品質保証について、シャープさんの品質をスタートアップが実現するのはオーバークオリティであり、とても現実的ではないですよね。ただ、シャープさんがそこまでやっているんだということを、スタートアップは知るべきで、スタートアップがどの程度の品質を考えているかを、シャープさんも知っておいた方がよいと思います。そこから、一緒に考えていくことが大切です。そのための「モノづくりブートキャンプ」であって、これを前提にスタートアップが量産段階に進むことを支援するのが「量産アクセラレーションプログラム」である、という気はしています。

――モノづくりのプロセスの中で、量産は大きな壁なのでしょうか?

(小笠原さん)量産は壁どころか沼ですよ。

(牧田さん)プロトタイプ(試作品)は、あくまでデモンストレーションをするのが目的なのですが、それが量産でそのまま動くんだっていう錯覚に陥ってくるんです。

(小笠原さん)モノづくりの沼にはまるんですよね。これで量産できるってどっかで思っちゃうんですが、そんなわけないんです。

――量産を支援してほしいというスタートアップの方は多いのでしょうか?

(小笠原さん)私が今まで支援してきたスタートアップ企業で、最初からそういう想いを持っている企業はほとんどないんです、困るまでは。でも100%困るんです。困りながらも突破していく人もいて、それはそれで強いですよね。でもそうじゃないところは、ノウハウをお持ちの企業が支援することで、突破できれば、というのが量産アクセラレーションプログラムを企画したきっかけですよね。

 

tsumugさんのスマートロックが解決する不動産業界の課題とは?

――7月に試験的に開催された「モノづくりブートキャンプ」に参加いただき、次のステップである「量産アクセラレーションプログラム」にも参加いただいているのですが、きっかけはどのようなものだったのでしょうか。

(牧田さん)私たちがつくっているのは鍵なので、しっかりとした安全基準をクリアするにはどうしたらいいのだろうとずっと考えていました。それなので、割と早いタイミングでシャープさんにたどり着くことができました。「量産アクセラレーションプログラム」をやろうとしていると聞いた瞬間に、やらせてください! って(笑)

 

賃貸物件向けスマートロック「SharingKey ForRent」(イメージ)

 

――なぜスマートロックを開発しようと思ったのですか?

(牧田さん)IoTのデバイスがもっと世の中に浸透していけばいいなとずっと思っていました。不動産会社に勤めていた経験があるのですが、不動産業界もテクノロジーで便利になること、解決できることがたくさんあると思っています。

(小笠原さん)牧田さんは目的型というか、「何を作りたい」より「こうしたい」というのが先にあって。物理鍵をなくしたいって言ったのが一番面白かったんです、僕にとっては。

――鍵が作りたいのではなくて、IoTで課題を解決したいということですね。

(牧田さん)例えば6万件の管理物件がある管理会社さんは、月に千本単位の物理鍵の出し入れが発生します。新しく入居しますとか、無くしましたとか、内見で鍵が必要ですとか。それだけ発生していると、鍵の受け渡し自体が手間ですよね。IoTのデバイスなら、物理鍵の受け渡しや保管場所などの問題を解決できると考えています。一昨年くらいにシェアリングエコノミー※2が話題に上ったときに、物理鍵をなくして鍵の受け渡しが楽になれば、シェアリングエコノミーも活性化するのではと思いました。

※2 シェアリングエコノミーとは、空き部屋等の個人が保有する遊休資産(無形のものも含む)の貸出を仲介するサービス。

――そこからスマートロックをつくろうと思ったわけですね。一番最初は何をされたのですか?

(牧田さん)最初は本当によくわからなくて、小笠原さんに相談しました。DMM.make AKIBAに来て相談すれば解決策を教えてもらえるんじゃないかと思って。それから、会社を立ち上げて、メンバーを集めました。プロトタイプも、DMM.make AKIBAのスタッフの方々と一緒につくりました。

(小笠原さん)プロトタイプまでは、DMM.make AKIBAでできるんですよ。そこから先は、どうしても量産のことを考えないといけない。プロトタイプと全く同じものを量産できるわけではないので、シャープさんと「モノづくりブートキャンプ」を立ち上げたんです。「モノづくりブートキャンプ」でモノづくりの概要を知ること。でも自分たちでできるかっていうと、難しいですよね。そこで、量産を支援するプログラムがあったほうがいいですよねという流れです。

――「量産アクセラレーションプログラム」は、既にスタートしていると思いますが、現状はいかがでしょうか。

(牧田さん)シャープさんとは、コミュニケーションツールを使ってチャットやボイスチャットでやり取りをしています。スタートアップには資材部や調達部があるわけではないので、今は調達や設計、出荷できる状態まで支援していただく量産パートナーを探しているところです。

(小笠原さん)例えばパートナーを選定するとか、部品を調達するとか、スタートアップがやると難しい面があります。シャープさんなら、一度現場を見て話をすれば、今までの経験から、わかることがありますよね。

(牧田さん)スタートアップで多いのが、納期がずれることです。これは特に、量産する工場どパートナーとのコミュニケーションの齟齬から起こることが多いと感じています。こういうことを言ったつもりでも、うまく伝わっていないとか。何かトラブルが起こると、ハードウェアは大幅に遅れてしまうんです。シャープさんが一緒にコミュニケーションを取ってくれると、心強いですよね。

――最後に、この取り組みの狙いを改めてお聞きしてもいいですか?

(小笠原さん)大きな組織だったり、コモディティ化した製品を扱ったりしているところは、コモディティを守る力が強い反面、イノベーションを起こす力が弱い。足元を見ながらイノベーションを起こすってかなり難しいことです。その難しいことに挑戦するよりは、イノベーションを起こそうとしている人たちと組んでみる。シャープさんがモノづくり研修を立ち上げたのは、社内でそのような「創業精神を醸成すること」が目的ですよね。そのためにはまず、お互いの文化や背景を知らないと手を組むことはできないですよね。今回の取り組みで、なぜスタートアップが注目されるのか知っていただきたいし、なぜ大手メーカーさんの商品がこんなに売れるのかをスタートアップは知ってほしいと思っています。

――ありがとうございました。

 

tsumugさんが開発中の海外向けスマートロック「TiNK」は、2017年1月5日から8日にかけて米国ネバダ州ラスベガス市で行われた米国最大のエレクトロニクスショー「CES 2017」で初めて展示され、大変好評だったそうです。「TiNK」も当社が量産の支援をしていきます。

 

海外向けスマートロック「TiNK」(プロトタイプ)

 

CES 2017の様子

今回スタートした「量産アクセラレーションプログラム」。シャープ初となるこの取り組みに、今後も密着していきたいと思います。

(広報担当:M)

 

SHARP IoT. make Bootcamp
http://www.sharp.co.jp/iot_make_bootcamp/

 

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