【シャープ横断♪バトンリレー】第6走者◆マニアックすぎる「トナーの設計開発」解説します

シャープ横断バトンリレーの第6走者として、下池さんからバトンを引き継ぎました、スマートビジネスソリューション事業本部 スマートワークソリューション事業部 第7技術部の和田です。下池さんとは「出身地が同じ(福岡)」、「名前が同じ(おさむ)」、そして「同期」という関係です。お互いの結婚式に参加し合えたことはいい思い出です。今でも九州出身の同期で集まることもあります。最近は、コロナ禍のため、オンラインでしか会えておりませんが、リアルで集まれる日が待ち遠しいところです。

今回、技術部門トップバッターとしてバトンを受け取ることに対し、私でいいのか・・という思いがありながらも、せっかく頂いたお話ですので、第6走者の役割を果たしたいと思います。

2007年に入社した私は、当時のドキュメントシステム事業本部に配属されました。ドキュメントシステム事業本部は現在のスマートビジネスソリューション事業本部であり、主にオフィス用複合機の設計・開発・製造、オフィス効率化のソリューション提案等を行っています。私が入社時から今に至るまで、開発に携わっているのは、複合機の中の『現像剤』になります。『現像剤』とは絵を出力するためのものであり、インクジェットプリンターで例えるならインクです。但し、インクとは異なり、現像剤は「粉」です。また一言で現像剤といっても2種類の「粉」が混ざった状態になっています。その2種類の粉は「トナー」と「キャリア」と呼ばれるものです。トナーは多くの方が聞いたことはあるかと思いますが、キャリアはほとんどの方が聞いたことさえも無いものだと思います。そして私が配属されて最初に携わったのが、このキャリアの開発でした。

この聞き馴染みのない「キャリア」とは何か・・を説明させて頂きたいのですがその前に、複合機の中でどのようにして画像が出るのか、についての説明を無くして、キャリアを説明することはできませんのでここで少し、複合機の画像形成プロセスをごく簡単に紹介させて頂きます。まずはトナーを摩擦帯電によって電荷を持たせます。電荷を帯びたトナーに電界をかけて、クーロン力によりトナーを移動させるプロセスを複数回繰り返し、最終的に紙上にトナーによる画像を形成します。そして主成分が樹脂であるトナーを熱と圧力によって紙面上に固着させることで、画像を形成しています。つまり、トナーが電荷を帯びていることがトナーを移動させるため、つまり画像を形成するために非常に重要な因子となるのですが、トナーに電荷を与えているのがキャリアです。トナーとキャリアとを撹拌し、摩擦帯電によってトナーに電荷を与えます。少し解説書のような内容になってしまいました・・すいません。。私の話に戻ります。

入社後最初に配属されたGrは、このキャリアを完全に一から設計・開発するというテーマに取り組んでいました。結果として当時のシャープとしての最高速カラー複合機に搭載され、初の完全自社設計のキャリア開発として全社表彰もされました。その中で私の貢献度はというと・・ゼロです。。配属された時には処方は確立されており、私は最終品の評価を少しした程度でした。それでも全社表彰のメンバーにちゃっかり入れて頂いたことは、当時のGrの方々に感謝しかありません。

その後も約5年ほどキャリア開発業務の経験を積み、入社6年目の頃にトナーの設計開発に携わるようになりました。トナーとは主成分である樹脂中に顔料や各種添加剤が練り込まれた、直径数μm程度の粒子になります。

実際のトナー画像。直径数μmの粉。見た目だけでは、様々な材料がナノオーダーで微分散されている複合材料であることは分からない。

トナーは、その語源である「tone(トーン)」が意味する通り、色調を与えるものとして、まさに画像を生成するためのものになります。トナーは、求められる多くの性能や生産性が様々なトレードオフの関係になっており、トナー開発において重要なことはその全体最適化をどのように図るかという点になります。その中でも、近年特に重要性が増している特性が、「どれだけ低温で定着できるか(低温定着性)」と「耐熱保存性」の両立になります。低温定着性は複合機本体の省エネルギー性能を高めるために重要となります。複合機で多くのエネルギーを消費しているのは、トナーを紙面上に熱と圧力で固着させる定着工程です。その定着工程での消費エネルギーを減らすためにトナーを低温で溶けるような設計にするのですが、夏場の輸送時等で固まってしまっては話になりませんので、耐熱性も重要となります。・・またしても長々と技術説明をしてしまいました。。自身の開発の話に戻ります。

電子写真の画像形成プロセス。
現像工程にて、キャリアとトナーが撹拌されてトナーに負電荷が与えられる。その電荷がトナーを動かし、画像を形成する原動力となる。

7年程前の主力モデルであるカラー中低速機用トナー開発の話になります。前述したトナーの「低温定着性と耐熱性」をより高いレベルで両立させるべく、新たな技術を導入して開発を進めていました。ラボスケールの試作ではうまくできていたので、実際のトナー生産工場での試作を行うことになったのですが、そこで衝撃の結果を突き付けられることになりました。生産ラインの配管が至る所でトナー詰まりにより閉塞してしまい、とても生産できるトナー処方ではないことが判明したのです。求めていた性能は、生産安定性とトレードオフの関係にあったのです。結局、配管をすべてばらして清掃が必要だと分かった時の現場の空気、皆さんの表情は忘れることはできません。1日がかりでその対応をして頂き、関連部門の方々には本当に多大なるご迷惑をお掛けしてしまいました。自分自身、そのことで精神的にまいっていましたが、2か月後には、複合機本体として最終段階の試作機の評価が始まろうとしており、それどころではありませんでした。まずは原因となった特性は何かを追求、そしてその特性を数値化する手段を確立しました。トナーとしてのその他の性能を維持しながら、その特性だけを改良できるように処方を調整し、数値上は前回のようなトラブル無く生産可能となるトナー処方が確立できました。しかしながら、実際にトナー工場での試作となると本当に大丈夫かという不安が大きく、更に今回トナー試作が出来なければ、複合機本体の開発日程に支障をきたしてしまうということもあり、トナー試作前日は一睡も出来なかったことを今でも覚えています。何とか無事にそのトナーを量産することができ、その後は、本体マイナーチェンジに伴うトナーの改良や、派生機種への展開に伴うトナー処方最適化、そして今年発売開始されたカラー中低速複合機の最新モデル用トナーの設計開発にも継続して携わることが出来たということは、技術者冥利に尽きます。

7年前(2015年)に発売したカラー低中速機シリーズ。
トナーの開発はトラブル続きで、あまり思い出したくない過去ですが、
ある意味いい経験をさせて頂きました。
今年(2022年)に発売したカラー低中速機シリーズ。
7年前の反省を生かすことが出来た(!?)と思っています。

話はがらっと変わりまして、私の趣味の話を少しさせて頂きます。小学校から続けているサッカーを、40歳になった今でも懲りずにシャープ郡山サッカー部で続けています。今年からは更に、40歳以上のシニアリーグというものもあり、40歳の最若手としてそちらにも参加させてもらっています。関西圏でサッカーをやりたいという方は、年齢を問わず、私までご連絡を頂ければと思います。この場をお借りしまして、ちゃっかりと宣伝させて頂きます。

2013年に奈良県社会人リーグ入れ替え戦で勝利し、2部昇格を果たした時の写真。5年前に再び3部に逆戻りして・・
今は3部で楽しくサッカーやっています。

次のバトンは、そんなサッカー仲間で繋ぎたいと思います。

Sharp Electronics (Europe) Limited(欧州統轄会社)の吉村 広之さん

です。ロンドンでもご活躍のことと思います。次回宜しくお願いします!


(和田統/スマートビジネスソリューション事業本部 第7技術部)


≪シャープ横断♪バトンリレー≫とは…?
みなさんの人脈を駆使しバトンのようにコラムを繋いでいくという、太古の昔からある数珠つなぎ企画!第6走者はスマートビジネスソリューション事業本部の和田さんでした。第7走者は、和田さんからバトンを託された吉村さんです。お楽しみに♪

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