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6年の開発期間に懸けた、魂の鼓動が聞こえてくる。 「AQUOSサウンドパートナー」開発者インタビュー

ウェアラブル端末として、首にかけて音を楽しむ「ネックスピーカー」は昨年から流行の兆しを見せ、各社から注目の商品が登場しました。耳をふさがずに耳元で再生するため、音に包まれるような感覚が味わえることや、周囲の音を遮ることなく楽しめるのが特長です。当社も昨年の『AQUOSサウンドパートナー』<AN-SS1>に続き、第2弾となる上位モデル<AN-SX7A>を発売しました。

『AQUOSサウンドパートナー』<AN-SX7A>は、低音に振動効果が加わり、サブウーファーのような重低音を実現した「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」を採用するなど、臨場感ある音質で、好きな映画や音楽、ゲームなどを楽しめるモデルです。また、装着しても疲れにくいフィット感を実現し、1回のフル充電で連続13.5時間の長時間再生をお楽しみいただけます。

実は今回の<AN-SX7A>の発売に至るまで、6年の開発期間が費やされています。つまり、6年前からネックスピーカーに注目し、当社ならではの商品開発を進め、満を持して発売するものなのです。

なぜ、これだけの開発期間をかける必要があったのか、当社がネックスピーカーでどんな価値を提供できるのか、気になる商品開発の裏側を、担当の蓑田(みのだ)さんに聞きました。

ネックスピーカーを持つ開発担当の蓑田さん

――ネックスピーカー、最近大注目の商品ですね。

そうなんです。ネックスピーカーの国内市場は2018年度に10万台規模へ急拡大し、2017年度の約7倍になる見込みです。2019年度はさらに広がっていきそうです。

――今回の商品、開発に着手したのが6年前の2013年と聞いています。当時、どのようなきっかけで開発をスタートしたのでしょうか。

当時はテレビの音声まわりの開発を担当していました。一般的に高音質を実現するためには大きなスピーカーが必要になりますが、デザインや重量とのバランスも取る必要があります。この制約の中、最大限に聴き取りやすい音声をお届けしてきたと自負していますが、一方でさらなる高音質や、映像と一体化する感動を、大きなスピーカーがなくても手軽に体験していただきたいという思いが強くなり、テレビで培った音声技術で新規商品が開発できないかと考えました。

この思いを形にするため、有志で集まってさまざまなアイデアを練り、試作機を作ることを繰り返しました。 業務とは別の自主的な活動としていましたが、社内で試作機を見せたことをきっかけに正式な活動として認められ、費用面でのバックアップを受けられることになりました。このタイミングで「idea Laboratory (アイラボ)」と命名し、ロゴマークまで作りました。

アイラボとなってからも試作を繰り返し、音質の向上を目指していましたが、あるとき試作機を体験した複数の社員から、重くて肩がこるのでマッサージ機能をつけては?と言われてしまいました。このような意見が出るのは正当なオーディオ機器と受け止められていないことの表れで、実用化には軽量化や装着感の向上も必要なのだ、と気づくきっかけになりました。

歴代の試作ネックスピーカー
歴代の試作機と完成したサウンドパートナー

試行錯誤を重ねるうちに、高音質、軽量、装着感、デザインなどこだわるポイントが増え、かなりの時間がかかってしまいましたが、無線技術の向上や普及といった市場環境を考えると、良い時期に発売できたと思います。

ネックスピーカー試作機を持つ開発担当の蓑田さん

――どの点に一番こだわりを持って商品開発されたのでしょうか。

高音域と低音域のバランス、音の広がりを実現するためのスピーカー構造ですね。本機では、低音を増幅する「バスレフ型」、振動による臨場感を生み出す「パッシブラジエーター型」と呼ばれる構造を組み合わせたハイブリッド型のスピーカー構造を採用しています。一般的にスピーカーユニットを鳴らすと、その前後には位相の逆転した同じ音が発生します。これらは互いに打ち消し合うため、スピーカーボックスに入れることで背面に発生した音を隠し、前面の音だけを聴く人に届けます。ただこの効果を発揮するには大きな容積が必要で、本機のような形状ではなかなか確保できません。また単純に背面の遮音を実現すると低音が物足りなくなってしまいます。そこで生まれたのが「バスレフ型」、「パッシブラジエーター型」のような構造なのですが、それぞれに一長一短があります。

ネックスピーカーのハイブリッド構造
本機に搭載するハイブリッド構造。
中央にダクト、周囲に振動ユニット。

「バスレフ型」ではスピーカーボックス内にダクトと呼ぶ細長い構造が必要になり、小さな本機には収まりません。「パッシブラジエーター型」ではメインスピーカーユニット以上に大きな振動ユニットが必要です。
これらをハイブリッド化し、短いダクトと小さな振動ユニットの両方を搭載することで、 迫力の低音と振動を実現しました。

もちろん装着感にもこだわり、さまざまな材質、形状、重さ、硬さで試作しました。細長く直線のない形状に機能を凝縮するため、機構担当や回路担当も必死で知恵を絞ってくれました。

――より良い音をお届けするための細部へのこだわりが伝わってきます。一方で「シャープ」と聞いて「オーディオの会社」というイメージを持たれているユーザー様はあまり多くないかもしれません。当社ならではの特長や、込められた想いがあれば教えてください。

当社はオーディオ専業メーカーではありませんが、テレビの映像と音声を一体として体験いただくため、さまざまな商品開発に取り組んできました。さきほど説明した高音質に加えて、非常に遅延の少ない無線通信技術を採用しており、一層の臨場感を楽しんでいただけると考えています。

――見ている映像に対して音声の遅延が非常に少ないのは、その世界観に没入する上でとても大切な要素ですよね。蓑田さんは、実際にどういうシーンで『AQUOSサウンドパートナー』を使用しますか?

映像と音声の一体感を感じられる映画鑑賞に使用しています。海の中のシーンではまるで自分が水に囲まれているように感じますし、ロケットに乗って宇宙に飛び出していくシーンでは本当に搭乗しているかのようで緊張感と高揚感を覚えます。

それと音楽鑑賞にも使用しています。楽器が多くなく、ひとつひとつの音が際立つジャズがおすすめです。

――参考になります。最後に、今後どのような商品を開発したいと考えていますか。

より自然で、音の方向や遠近感まで感じられるような商品を開発したいと思っています。通常は視聴者の周囲に多数のスピーカーを配置しなければなりませんが、擬似的に前方からの音だけで表現する研究は進んでおり、商品化もされています。『AQUOSサウンドパートナー』であればまた違ったアプローチができると思いますので、このサイズまで凝縮するのが目標です。

――ありがとうございました。

ヒット商品や流行は、ある日突然登場する感覚がありますが、その背景には先を読んだ商品開発に加え、時代のニーズ、タイミング、商品の完成度など、さまざまな要因がマッチした時に生まれる「必然」があるように感じました。これからもその「必然」をつくり出すために、開発者たちは強い想いを込めて商品開発を続けていくことでしょう。

(広報担当:K)

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