SHARP Blog

メンテナンスフリーのビーコン開発!
~ 世界最高レベルの発電効率※1を実現したバッテリー交換不要のビーコン「レスビー®」~

バッテリー交換不要のビーコン「レスビー」

 

昨年(2019年)8月、当社は世界最高レベルの発電効率1を実現したバッテリー交換不要のビーコン「レスビー®」を発表しました。“ビーコン”とは聞きなれない言葉かもしれませんが、位置情報信号を無線通信Bluetooth®などで発信する機器です。

※1:各種太陽電池の発電効率(屋外評価基準AM1.5)が収録された専門誌(Progress in Photovoltaics)の色素増感太陽電池分野において、2012年に当社製品が世界最高効率と認定され、現在(2020年4月時点)もなお維持しています。この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)への業務委託の結果得られたものです。

スマートフォンやタブレットなどの端末で行先案内をする「ナビゲーションサービス」は、一般的にGPS(Global Positioning System/全地球測位衛星システム)衛星からの電波を活用しており、その電波が届きにくい屋内や地下施設ではうまく案内できません。そこで役立つのがビーコンです。専用のアプリをインストールしたスマートフォンなどの端末が、ビーコンの位置情報信号を受け取ると現在地を確認できる、つまり屋内でも道案内などが可能になります。最近では、位置情報信号の発信だけでなく、ウィンドウショッピング時にお近くの店舗からのクーポンが配信されるなど、多くの用途で広く活用されつつあります。

「ナビゲーションサービス」でのビーコンの役割(イメージ)

「ナビゲーションサービス」でのビーコンの役割(イメージ)

 

当社が開発したビーコン「レスビー®」は、世界最高レベルの発電効率を実現した色素増感太陽電池を電源として搭載しているため、バッテリー交換が不要となりメンテナンスフリーです。昨年7月末に、第1弾として清水建設株式会社に納入を開始しました。今回は、この製品を開発した研究開発事業本部の担当者に聞きました。

レスビー

 


 

― ビーコンの市場規模はどれぐらいですか?

 位置測位向け(位置信号を発信する)の2018年の年間出荷実績は7,200万台で、2023年には4億3,100万台2と、5年で約6倍の拡大が見込まれる有望市場です。しかし、その多くがコイン電池や乾電池など使い切りの1次電池を電源とするもので、当社のような太陽電池が搭載されたタイプの割合は、数パーセントといったところです。多くの企業に導入いただけるよう頑張っていきます。

※2:出典 Bluetooth SIG Inc.のBluetooth Market Update
   https://www.bluetooth.com/wp-content/uploads/2018/04/2019-Bluetooth-Market-Update.pdf

 

― なぜ、バッテリー交換不要のビーコン「レスビー®」を開発しようと思ったのですか?

私たちが所属する研究開発事業本部では、当社が得意とする技術をベースに、まだ事業化されていない製品の開発を行っています。当社は約60年の長きにわたり、太陽電池事業を行っていて、多くは住宅/産業用の結晶シリコン太陽電池でしたが、並行して、有機物を用いた色素増感太陽電池の用途検討も進めていました。その製品化を企画する中で目を付けたのが、市場拡大が見込まれるビーコンです。

先ほどお話ししたように、市場に出ているビーコンのほとんどが充電できない1次電池を使っていて、通常、6か月~2年毎に電池交換が必要です。加えて、高い場所に設置するため、交換する際の手間やコストもかかります。この課題を解消するのに、太陽電池を搭載したバッテリー交換不要のビーコンはうってつけの製品でした。

一般的なビーコンと課題

 

 ― 数種類ある太陽電池の中から、なぜ、色素増感太陽電池を選んだのでしょうか?

私が以前、色素増感太陽電池の製品化を企画していたこともありますが、ナビゲーション用途でビーコンが設置される屋内や地下施設は、暗いところが多く、低照度でも安定的に発電できる色素増感太陽電池を採用するのがベストだと考えました。セルの発電効率で比較すると、屋内(エレベータホールや駅舎のコンコースのようなのような500 lx(ルクス)程度の明るさ) だと、結晶シリコン太陽電池が数%、アモルファスシリコン太陽電池は約10%、色素増感太陽電池は約20%と、アモルファスシリコンと比べても、色素増感太陽電池は約2倍の発電効率です。500 lx(ルクス)以下の暗いところでも、若干変換効率は落ちますが、結晶シリコンはもちろん、アモルファスよりも約1.5倍ほど高くなります。

また、アモルファスシリコンの場合、1,000 lx(ルクス)以上の照度の照明器具の近くに設置すると、劣化して次第に発電効率が落ちていくのですが、色素増感太陽電池ではそのようなことはありません。色素増感太陽電池は、高照度の場所でも、非常階段や屋内の非常灯の下など50lx(ルクス)程度の暗所※3でも、安定して発電できます。

※3:JIS照度基準(JIS Z9110)を参考にしています。

 

色素増感太陽電池の開発を担当した 研究開発事業本部  研究員 扇谷 恵 <左:「レスビー®」搭載の色素増感太陽電池 右:「レスビー®」製品化以前の色素増感太陽電池(試作品)>

色素増感太陽電池の開発を担当した  研究開発事業本部 研究員 扇谷 恵
<左:「レスビー®」搭載色素増感太陽電池 右:「レスビー®」製品化以前の色素増感太陽電池(試作品)>

 

実は、以前、清水建設株式会社様の開発部門と情報交換する機会があり、シャープで太陽電池搭載のビーコンを企画しているのであれば、低照度の明るさでも使用できる10年以上メンテナンスフリーの製品が欲しいという要望をいただいていました。そうした点からも、色素増感太陽電池以外の選択肢は考えられませんでした。

 

― 色素増感太陽電池を搭載したビーコン「レスビー®」の特長を教えてください。

大きく3つの特長があります。

① 50 lx(ルクス)程度の低照度でも安定的に動作

当社は、色素増感太陽電池自体の研究開発についても約20年の歴史があり、日々研鑽してきたおかげで、2012年に、色素増感太陽電池分野の屋外評価基準(AM1.5)で世界最高発電効率に認定1され、現在も維持しています。世界最高発電効率の当社製太陽電池を電源とすることで、レスビー®は50 lx(ルクス)程度の暗所でも信号を1回/秒の間隔で安定して発信できるのです。この性能は、太陽電池を電源とするビーコンの中でもトップクラスです4

※4:当社調べ。

 

② 小型でオフィス空間にマッチするデザイン

他社のビーコンには、アモルファスシリコン太陽電池を搭載したものもありますが、先述の通り、照度の低いところでは、色素増感太陽電池の方が、発電効率が高くなります。つまり、同じ量の電気を作る場合、太陽電池セルの面積を小さくできるので小型化が可能になります。また、周囲の環境に溶け込むデザインを採用したほか、壁にネジ止めしてもネジが見えにくい構造にするなど、オフィスへの設置を想定した設計としています。

高いデザイン性

オフィス空間にマッチ

 

③ メンテナンス作業が不要

定期的に交換する必要がある1次電池と違い、自ら発電する太陽電池を電源としていますので、電池交換の手間が不要です。

 

― 当社の色素増感太陽電池の優位性と開発するのに苦労したことを教えてください。

当社の色素増感太陽電池は、コストの高い透明な導電性ガラス基板の使用量を減らしたことに特長があります。技術的な話になりますが、従来の色素増感太陽電池は、この導電性ガラス基板を2枚使用していました。それに対し、当社では、酸化チタン、絶縁層、対極となる負極電極のすべてを1枚のガラス基板上に積層させるモノリシック型集積構造の実現に成功しました。導電膜を半分にすることで、大幅なコストカットになります。この構造にしたことで、耐熱性も向上しました。

当社色素増感太陽電池の優位性 ~素子構造~

 

また、太陽電池セルの中には電解液が含まれていて、電解液が外に流出すると、動作不良を起こしてしまいます。漏れ出ない構造や、それを実現する量産プロセスの開発も大きな課題でした。これには、当社が液晶パネルの量産プロセス技術の開発を極めてきたことが功を奏しました。この技術を最大限活用することで、漏れないのはもちろんのこと、従来5~6mmあったシール幅を約1mmへと狭額縁化を実現できました。これは機器の高寿命と小型化にも寄与しています。さらに、光を効率的に吸収できる(光閉じ込め効果の高い)電極構造を開発することで発電効率アップを大幅に実現しました。こうした様々な当社独自技術の組み合わせ効果により、コストを下げつつも、小型で世界最高レベルの発電効率を持つ、色素増感太陽電池が誕生しました。

当社色素増感太陽電池の優位性 ~狭額縁~

 

― 電池開発以外で苦労したことはありましたか?

もちろん、たくさんありました。色素発電素子の開発を行う研究開発部門であり、部内に製品設計に携わった経験者が回路設計専門の私(清水研究員)しかおらず、機構設計に加え、ソフトウェア開発を併せて担当することとなりました。そのため3DCADを1から勉強する必要がありました。

ほかにも、私達が所属する研究開発事業本部は、もともと商品事業を担当する部門ではないため、生産関連部門が対応する部材の調達や工場の手配もすべて自分達で行わなければならなかったことなど、製品開発以外のところでも苦労しましたね。

機構と回路設計を担当した 研究開発事業本部 材料・エネルギー技術研究所 第3研究室 研究員 清水 智之

機構と回路設計を担当した
研究開発事業本部 研究員 清水 智之

 

― 今後の展開を教えてください。

当社のビーコンは、現在、位置情報のみを発信していますが、各種センサと連携させることで、温度や湿度などの付加情報を知らせたりすることなども検討しています。

ビーコンは、ナビゲーション用途以外に、お近くのお店のクーポンなどをお客様に発行することで、店舗へ誘導することにも活用されつつありますが、美術館や博物館で展示物の説明を配信することも可能です。また、オフィスなどでセンサとビーコンを組み合わせて出退勤処理の自動化を手助けするなど、ほかにも様々な展開が考えられます。もちろん、小型化や変換効率アップなど製品自体のさらなる進化をめざして開発していきます。

 


 

今回は、高性能とデザインを両立したメンテナンスフリーのビーコン「レスビー®」を紹介しました。当社が得意とする太陽電池の研究から産み出された製品です。目立たないところに設置されるので気づきにくいのですが、実はすごい製品なのです。

当社は液晶テレビやスマートフォンのような一般家庭向け製品はもちろん、「レスビー®」のようにインフラ整備を行う企業を通じて、空港・駅などの公共施設、地下街や展示場、オフィスなどで活躍する製品なども作っています。家庭やオフィスを問わず様々な場所・場面で、便利で役立つ製品を提供していきますので、ぜひ、これからのシャープに期待してください。

 

(広報担当:H)

 

<関連サイト>

■ニュースリリース
バッテリー交換不要のビーコンを開発、供給開始

Top