液晶ディスプレイ工場で量産するソーラーパネル?
~高効率、低コストの屋内光発電デバイス『LC-LH』誕生! SDGs達成に貢献~
シャープは、屋内光発電デバイス『LC-LH』を開発しました。微弱な屋内光でも高い発電効率を持ち、既存の液晶ディスプレイ工場の設備・製造ノウハウを活用することで大幅に低コスト、高品質での量産を可能にします。本デバイスは、色素増感太陽電池※1と液晶ディスプレイの製造技術を融合したもので、使い捨て電池の置き換え用途での活用も見込まれ、国際的な目標となっているSDGs達成に貢献します。
また、昨年10月に開催された、国内最大規模のIoTの展示会「CEATEC 2022」において、「CEATEC AWARD 2022※2」の最上位賞の一つである『経済産業大臣賞』を受賞するなど、評価と注目を集めており、既存の液晶ディスプレイ工場を活用して2023年度に量産を開始する予定です。
1月5日(木)から1月8日(日)まで、米国ネバダ州ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2023」にも出展しました。(CES出展の様子はブログで紹介していますのでご参照ください。)
- ※1 色素で吸収した光を電気に変換する有機太陽電池の一種です。
- ※2 「CEATEC AWARD2022」は、「CEATEC 2022」 に展示される技術・製品・サービス等のうち、「CEATEC AWARD 2022 審査委員会」が学術的・技術的観点、市場性や将来性等の視点から、イノベーション性が高く優れていると評価できるものを審査・選考し、表彰するものです。
今回は、『LC-LH』の特長や、本デバイス開発の経緯、さらに、「CEATEC 2022」の場を活用した認知度向上の取り組みなどを、当社研究開発本部の開発担当者と、『LC-LH』の製造、企画、販売を担うシャープディスプレイテクノロジー株式会社 (以下、SDTC)の企画担当者に聞きました。
― 早速ですが、屋内光発電デバイス『LC-LH』の特長を教えてください。
<屋内光発電デバイス『LC-LH』の特長>
① 従来比約2倍※3の発電性能(屋内光環境下)
② 低コスト・高品質で製造可能
③ 電源コード不要で、便利で快適な製品を創出
④ 使い捨て電池の使用を削減でき、SDGs達成に貢献
- ※3 照度500ルクスの条件下にて、屋内用途で一般的に使用されるアモルファスシリコン太陽電池との比較(シャープ調べ)
→①:(津田)このデバイスは、微弱な屋内光でも発電する電源で発電効率が高い、色素増感太陽電池を用いています。屋内の発電用途では、電卓などに採用されているアモルファスシリコン太陽電池を用いることが多いのですが、色素増感太陽電池を用いた『LC-LH』の発電効率はその約2倍※3と高く、屋内光発電で業界トップクラスの発電性能を持ちます。
→②:(一ノ瀬)『LC-LH』は色素増感太陽電池から、ただ名前を変えただけのデバイスではありません。特筆すべきは、液晶ディスプレイ(LCD)の製造技術・製造フローを活用して、量産できるようにしたことです。液晶ディスプレイが、上下2枚のガラスの間に液晶を封止するのと同じように、『LC-LH』も両ガラス間に色素と電解液を封止しており、類似した構造や製造フローとなっています。そのため、液晶ディスプレイ工場での量産が可能であり、従来の色素増感太陽電池より大幅な低コスト化と、長年蓄積した液晶ディスプレイ製造技術のノウハウ活用による高品質なデバイスが実現します。
→③④:(津田)屋内光発電デバイス『LC-LH』を搭載した製品は、電源コードが不要です。自ら発電するので、電子棚札、電子POP、ヘルスケアや環境関連のセンサといったIoT製品に搭載可能であることに加え、使い捨て電池の廃棄量削減につながります。また、ビーコン※4などを部屋や通路などの屋内に設置する場合、数多くの電源が必要になりますが、『LC-LH』は電池交換が不要なことから、高所や目の届かないところなど、様々な場所に設置することができます。これらは、SDGsの掲げる「リサイクル」「クリーンなエネルギー」を実現しながら、便利で安全な社会に貢献します。
- ※4 電波の発信機。地下街など電波の届きにくい環境下で、GPSなどの代替手段としてビーコンの発信電波を受信することで、位置を特定するなどの用途に用いられます。
― なぜ、『LC-LH』を開発することになったのですか?
(一ノ瀬)スーパーなどで値段を表示する棚札はまだ紙のものが多く、価格変更の際には、一枚一枚、人手に頼って交換する必要があります。一方、瞬時に値段変更が可能な電子棚札も普及しつつありますが、電源としてボタン電池を使用するものが一般的で、定期的に電池交換が必要です。こうしたことから、微弱な屋内光でも高い変換効率を持ち、電池交換が不要な色素増感太陽電池へのニーズが、今後高まるのではと考えました。とは言うものの、当初は、研究開発本部内の専用設備で細々と作っており、コストに課題がありました。そこで、SDTCの液晶ディスプレイ工場を活用した量産化によって、コスト低減ができないかという話が持ち上がりました。
太陽電池は、住宅用の結晶シリコン太陽電池など固体で構成されているものが一般的ですが、屋内用途に割り切れば、液体状の色素増感太陽電池を使うことが可能です。同じく液体状の液晶を用いた液晶ディスプレイに類似した構造にすれば、既存の液晶工場を流用できるのではないかとの考えに至り、研究開発本部とSDTCとで共同開発を進めることになりました。
― どのように開発を進めたのですか?
(一ノ瀬)コスト改善が必要な部分として、まず頭に浮かんだのは色素の吸着フローです。色素増感太陽電池は、照射された光を吸収し電子を放出する性質のある色素を用いており、発電するためには色素を電極に吸着させる必要があります。従来は、「浸漬法(しんしほう)」と呼ばれる、色素の溶けた液体に電極が形成された太陽電池のガラス基板を漬け置き状態にする方法で、色素を吸着させていました。
これに対し、液晶ディスプレイでは、ODF※5と呼ばれる液晶封入技術により、滴下するだけで液晶を全体に行き渡らせます。ここに目を付け、同様のプロセスで色素吸着ができないかと考えました。当初、発電体への色素の吸着はうまくいきませんでしたが、試行錯誤を繰り返した結果、特定条件でエージングをすることで、色素が周辺まで行きわたることが分かり、また、光発電性能も従来の「浸漬法」で作製したものと同等になっていました。
- ※5 One Drop Fillの略。液晶ディスプレイでの液晶滴下の方法で、片側のガラスに液晶を滴下し、もう一枚のガラスで挟んで真空にして封止すると、液晶が全体に均一に行き渡ります。
次に検討したのが、色素増感太陽電池内に電解液※6を効率よく入れる方法です。昔の液晶ディスプレイでは、空のセル※7の一部に注入口を開け、真空にした(圧力を下げた)後に、注入口に液晶を触れさせ注入する、真空注入方式と呼ばれる方法で液晶を入れていました。その後、注入口を塞ぎます。色素増感太陽電池も、当初は昔の液晶ディスプレイと同様の方法で電解液を入れていましたが、長い時間を要するため、液晶ディスプレイのODF方式のように、電解液の注入を滴下で行うことを考えました。先ほど話した色素の吸着とこの電解液の封入がODFのような方法で実現すれば、液晶ディスプレイの製造プロセスに類似した形になり、生産効率が劇的に改善、つまり低コスト化が可能となります。
- ※6 色素増感太陽電池の構成素材。色素は電子放出した後に、その放出する能力を失うので、再度電子を色素に渡す還元剤が必要です。電解液はその還元剤などの役割があります。
- ※7 電極部、配向膜、スペーサーなどの外枠に液晶材料を注入したものを「セル」と呼びます。このセルと外部素子(LSIなど)を接続し、組み立てて液晶ディスプレイとなります。
非常に難しいプロセスでしたが、SDTCの製造プロセス担当者と三重工場(三重県多気町)で何度も議論を重ね、試作、開発を繰り返しました。そして、ついに液晶ディスプレイの構造・製造プロセスを流用した『LC-LH』を開発することがきました。これにはSDTCのノウハウが大きく貢献しました。太陽電池だけを開発してきた我々のみでは到達不可能であり、太陽電池と液晶の両方の技術を持つシャープだからこそ実現できたのだと思います。
― 『LC-LH』は、色素増感太陽電池の別名なのかと思っていました。話を聞くと画期的なデバイスであることがよく分かります。
(津田)『LC-LH』はLiquid and Crystal Light Harvestingの略です。液晶(Liquid Crystal)を使っているわけではないですが、あえて、LCの文字を入れることで、既存の液晶工場を活用し大幅なコストダウンを実現するデバイスであることを感覚的に理解していただけたらと思っています。「CEATEC2022」の会場でも、「この名称の意味は?」って何度か聞かれましたが、液晶ディスプレイの製造技術を活用しているという説明をすると、納得される方が非常に多かったです。この名称は開発ストーリーを説明するきっかけにもなり、これまでの色素増感太陽電池を超えるデバイスだと多くの方に感じていただけたと思っています。
― その「CEATEC2022」ですが、『経済産業大臣賞』を受賞しましたね。おめでとうございます。
(津田)ありがとうございます。素晴らしいデバイスなので、何とか賞を獲りたいと取り組んでいました。受賞の知らせを聞いた時は涙が出そうなほど嬉しかったです。CEATECに出展する『LC-LH』のプロモーションを推進する責任部門として、この新しいデバイスをどう理解し、評価していただけるか、たくさんの議論をしました。デザイン部門にも構想段階から入ってもらい、使い方などを含めた応用製品イメージの検討や、何を強調し、どんな言葉で表現すればご来場者に響くのかなど、筐体デザインから展示方法に至るまで一緒に検討しました。性能が良くても注目されなければ、知ってもらうことも、選んでもらうことがなく、せっかくの開発の苦労が無駄になりかねません。そういう意味でも、『経済産業大臣賞』の受賞は『LC-LH』にとって非常に大きかったと思います。
― 最後に、今後の抱負を教えてください。
(一ノ瀬)開発は完了しましたが、2023年度の量産開始に向け、現在、最後の詰めを行っているところです。皆さんにご満足いただけるデバイスに仕上がるよう頑張ります。将来的には、例えば次世代太陽電池のペロブスカイト太陽電池などにも、この知見を応用し、低コストの発電デバイスとして開発できたらと思っています。
(津田)『LC-LH』搭載製品は、電池交換のストレスもなく、生活の中で身近な存在にもなり得ます。例えば、お年寄りの見守りセンサなど、高齢化社会にもお役に立てそうです。シャープの商品事業を担当する部門と組んで様々な可能性を検討していきます。もちろん、SDTCはディスプレイを生産していますので、ディスプレイを組み込んだ製品も創出したいと思います。
― ありがとうございました。
以前、色素増感太陽電池を活用したビーコンのブログを公開した時、暗い部屋でも発電可能な色素増感太陽電池の可能性の高さを感じていました。液晶の匠の技と太陽電池の長年の技術の蓄積の融合により、大幅に進化した『LC-LH』は、これから大化けするのではないかと楽しみです。ぜひ、今後の展開にご期待ください。
(広報H)
<関連サイト>
■ニュースリリース:屋内光発電デバイス『LC-LH』が「CEATEC AWARD 2022」の『経済産業大臣賞』を受賞
■受賞表彰:屋内光発電デバイス『LC-LH』が「CEATEC AWARD 2022」の『経済産業大臣賞』を受賞
■SHARP Business Seeds:屋内光発電デバイス LC-LH (Liquid and Crystal Light Harvesting)
■SHARP Blog:
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