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ディスプレイの構造をヒントに?「AI Olfactory Sensor(AIにおいセンサ)」開発②

「SHARP Tech-Day」に展示した「AI Olfactory Sensor」

前回は、「AI Olfactory Sensor(AIにおいセンサ)」の開発の経緯、特長や活用方法について紹介しました。今回は、引き続き開発担当の寺西に、測定原理やディスプレイ技術の活用について話を聞きます。

前回の内容はこちら

「AI Olfactory Sensor」開発担当の寺西

   

― 「AI Olfactory Sensor」の測定原理を教えてください。

まずは、どういった流れで測定するのかを簡潔に言うと、

 ①におい分子を含む空気をポンプで引き込む。→ ②におい分子をイオン化 → 
③におい分子イオンをフィルタリング → ④におい分子イオンを電流として検出 → 
⑤検出値をイメージ(画像)化 → ⑥AIアルゴリズムを用いてデータ解析 ⇒ においを判別

という流れになります。

②でイオン化されたにおい分子は、電極が形成された2枚のガラスの間の細いスキマを(図では右方向に)流れ、そのイオン分子群がディテクタ(検出)電極に落ちると弱い電流として検出します。

専門的になりますが、ガラスの細いスキマを通る時、Field Asymmetric-waveという非対称の交流の電界をかけると、まっすぐ(右側に)飛んで検出部にたどり着いたり、上下のガラス側にそれて検出部にたどり着かなかったりと、イオンの特徴に応じた動きをします。
においを構成するものは数百から数千のイオンがあると言われており、非対称の交流の電界設定を数十万通り用意し、順番に電界をかけ検出します。

つまり、ある設定でどの分子イオン群が検出されるかを計測し、その設定ごとの変化を分析してにおいを判断しています。

シャープの「AI Olfactory Sensor」は、非対称の交流を使って、イオンの移動の速度の差を解析する手法であり、一般的にFA-IMS (Field Asymmetric-wave Ion Mobility Spectrometer)方式と呼ばれます。

 

― 従来型のにおいセンサに対する強みとは?

におい分子を膜に吸着させて計測する方式もありますが、その場合、吸着した分子を脱離させるのに何度も熱をかける必要があります。そのうえ、使用を続けるといずれ脱離しなくなってしまい、センサの性能が劣化してしまいます。
当社の方式は、におい分子の飛ぶ方向がずれるだけで、入ってきたにおい(分子イオン)はすべて強制的に排気しますので、におい分子がフィルタ電極や検出部に吸着することはなく、繰り返し使えます。

また、FA-IMS方式を使用したセンサは他にもありますが、他社は、におい分子を通過させる部分に、半導体に用いられるシリコン基板に小さい穴を開けたチップを使用しています。シリコン基板は厚みが少ないため非常に短い通路であるのに対し、当社の方式は2枚のガラスで構成されるため、通過部分の面積が大きくでき、乱流が起こりにくく、イオンがスムーズに流れるんです。その効果として、測定精度が高くなります。

 

― ディスプレイの基板技術を活用したと話していましたが・・・

はい。FA-IMSセンサはスキマに分子イオンを流して解析します。私が元々担当していた液晶ディスプレイは、2枚のガラスの間(=セル)に液晶が入っていますが、ここに液晶ではなく、分子イオンを流すように設計したらFA-IMSのシステムが構築できるんじゃないかとひらめいたんです。AI Olfactory Sensor」の独自技術は、ガラスのセルでFA-IMSの素子を作ったことと、データをイメージ化しAIを導入したところです。上述の通り、精度が高いのはもちろんのこと、長年培った液晶ディスプレイの量産技術や装置を転用すれば良いので低コストにもなります。

 

― 商品化が待ち遠しいですね。

はい。基本原理はできており、商品化を見据えた段階です。ただし、現在、においの判定には約1分かかります。におい成分は変化しやすいので、短時間でのセンシングも必要です。そのため、センサの数を増やすアレイ化(配列)などの対策を進めています。また、小型化も進めたいと思います。

センサ(におい分子イオンの分離・検出部):17mm×29.7mm

 

― 最後に、今後の抱負を教えてください。

「AI Olfactory Sensor」の商品化はもちろんですが、私たちのチームは、ディスプレイの要素技術を用いてノンディスプレイ分野で新しい事業を立ち上げることもミッションの一つです。「AI Olfactory Sensor」の開発により、新しい事業の立上げスキームを作ることができたと思っています。このスキームを活かし、次々と新規事業を産み出せればと考えています。

「AI Olfactory Sensor」開発メンバーを含めたノンディスプレイ技術開発チーム
(「SHARP Tech-Day」での集合写真)

 

― ありがとうございました。

 


「AI Olfactory Sensor」が、まさかディスプレイの構造を活かした製品だとは思いませんでした。シャープには数多くのディスプレイ要素技術があるので、ほかにも面白い製品が産まれることを期待したいと思います。

前回の内容はこちら

(広報H)

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■ニュースリリース:
 米国のテクノロジー見本市「CES 2024」に出展 
 「SHARP Tech-Day」(11/10~11/12)を開催

「SHARP Tech-Day」 

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