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TEKION(適温)で青果物流革命!<2>
業界初※1の青果専用12℃「適温蓄冷材」を用いた新配送システムが稼働 - 消費電力削減と働き方改革にも貢献 -

シッパー(青果と「適温蓄冷材」を入れる保冷容器)に2枚ずつ投入される12℃「適温蓄冷材」

前回、当社「TEKION LAB(テキオンラボ)※2」開発の12℃「適温蓄冷材」を用いた新配送システムがもたらす①品質保持効果などについて紹介しましたが、今回は、②消費電力低減と③人手不足解消・働き方改革の2つの効果と、それを導くために必要とされた33時間配送モデル、「TEKION LAB」の今後の展開などを紹介します。⇒新配送システム詳細はこちら(2020年8月3日共同発表リリース)

※1 青果配送を目的とした専用の蓄冷材(保冷材)として。 2020年8月3日時点。シャープ調べ。
※2 2017年3月に研究開発事業本部内に発足した、当社初の社内ベンチャー組織。水をベースとする独自の「蓄熱技術」をもとに、「適温蓄冷材」による応用商品を製作しています。シャープブランドとして、2019年9月に氷点下2℃のおいしい新感覚飲料を楽しめるクーラーバッグ「TEKION COOLER(テキオン クーラー)」を発売しました。また、発足以来、数々の協業を進め、今年(2020年)は、グローブ型クーリング(暑熱対策)アイテム「CORE COOLER」や、冷却効果のある飛沫エチケット製品「適温クーリングフェイスガード」をデサントジャパン株式会社・ウィンゲート株式会社・当社の3社で共同開発しました。

材料開発を担当する「TEKION LAB」研究員 勢造 恭平


― 
33時間融けない蓄冷材という要望があったんですよね。

パルシステムさまの青果の配送フローを紹介しますと、
産地 ⇒ セットセンター(青果を各ご家庭向けに仕分け) (⇒冷蔵トラック輸送) ⇒
配送センター(地域別の配送トラックに積み替え) ⇒ トラック配送 ⇒ 各ご家庭にお届け
となっており、春季から秋季(4月~11月)の期間、保冷配送をしています。

パルシステムさまの青果の配送フロー<提供:パルシステムさま>

0℃の蓄冷材を使用する場合、お客様に品質を保ったまま製品をお渡しするためには、配送センターからのトラック配送前の早朝に0℃の蓄冷材をセットする方法があります(蓄冷材のセットから各ご家庭まで約14時間程度)。しかし、それには早朝作業が必要で、人手が集まりにくいという課題がありました。

この早朝作業をなくすため、セットセンターで夕方から夜にかけて蓄冷材をセットするオペレーションも取られますが、これも、夜間の作業になり人手が集まりにくいそうです(この場合、蓄冷材のセットから各ご家庭まで約26時間程度)。
セットセンターから配送センターまでは、5℃~10℃の温度環境で、低温ではありますが、0℃蓄冷材は次第に融けていきます。となると、12時間(14→26時間)分の0℃蓄冷材を増量しないといけません。その分、0℃蓄冷材を凍結させる凍結庫の増床も必要となり、それに伴う消費電力の増大が課題になります。

このような背景から、パルシステムさまは、セットセンターでの青果の仕分けを行う通常勤務時間の朝9時頃ごろから夕方の間に、最長33時間融けずにもつ12℃の蓄冷材を投入することができれば、人手の問題と0℃蓄冷材増量に伴う電力消費量増大の問題の両方を解決できると考えておられました。


― 
33時間とはかなりの長時間ですね。

私もさすがに、33時間は無理だと思ったのですが…。じっくりとお話をうかがっていると、セットセンターに青果が届いてから、配送センターで配送トラックに積み替えるまで、10℃を超えない温度環境が維持されていることに気付きました。それなら、12℃「適温蓄冷材」は融けないので、要望を満たす33時間融けない「適温蓄冷材」の提供は可能と回答。そこから共同開発がスタートしました。ご満足いただける保冷品質や保冷時間なのか検証を繰り返し、採用が決まったのが2019年12月。タニックスさまを通じで納品を開始したのが2020年2月でした。


― パルシステムさまが要望される
33時間配送モデルを適用することによる効果についてもう少し詳しく教えてください。

はい。特に以下の②消費電力削減と③人手不足解消の2点です。


<12℃「適温蓄冷材」を用いた新配送システムの効果>

①品質保持(低温障害防止効果、緩衝材自体をセットする手間も不要)
②蓄冷材凍結にかかる消費電力40%削減 ⇒ 環境負荷削減(CO2削減)
③人手不足の解消や働き方の改革


従来、0℃の蓄冷材の凍結には、強力な凍結性能を有する冷却器に加え、約18時間という長い時間を必要としましたが、融点が高い12℃「適温蓄冷材」では、約12時間に短縮できます。パルシステムさまでは「適温蓄冷材」の凍結にかかる年間の電力消費量を40%程度削減できると試算しています。これは、一般家庭の電力消費量の約950世帯分に相当し、CO2排出量に換算するとおよそ2千トン、スギ人工林227ha(東京ドーム48個分)が吸収する量の削減になります。

また、先ほどご紹介したように、早朝や夜間に働く必要がないため人手の問題も解消でき、働き方改革にもつながります

12℃「適温蓄冷材」は、すでに普及している0℃蓄冷材よりコストアップにはなりますが、こうした大きな効果が得られることから、トータルで見てメリットが大きいと評価されたんです。

* 環境省「家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査 全国試験調査(平成26年10月~平成27年9月)」(排出係数)ならびに「電気事業者別排出係数(特定排出者の温室効果ガス排出量算定用)平成30年度実績」(CO2排出換算)より

パルシステムさまセットセンター 新配送システムによる青果の仕分け工程
<提供:パルシステムさま>


― 採用された12
℃「適温蓄冷材」の量産はスムーズに進んだのですか?

いやいや、そうはいきません。納品するまでにさまざまな苦労がありました。ラボでの研究段階では、不純物が少ない高純度の試薬を使用するので、想定した結果が出やすいんです。しかし、そうした超高純度の材料を量産レベルで使うと、とんでもなくコストがかかりますので、コストと純度のちょうど良いバランスの材料を探すため評価試験を何回もやりなおしました。また、量産過程では、「適温蓄冷材」を入れる器の作製など、追加の設備投資が必要とされました。協力会社にも多くのアドバイスをいただき、なんとか、品質とコストの両面で満足できるものが出来上がりました。

一方、重さへの配慮も必要とされました。配送を行う人は、青果と「適温蓄冷材」が投入されたシッパー(保冷箱)を何度もトラックに積んだりする必要があり、「適温蓄冷材」が重いと腰を痛めてしまいます。33時間融けず、かつ、できるだけ少ない「適温蓄冷材」の量とはどれ位なのか、繰り返し検証を行いました。


― 苦労が実っての納品ですね。では、「
TEKION LAB」の今後の展開を教えてください。

12℃の「適温蓄冷材」は、今回は120万枚という大型受注になり、法人向けビジネスでの実績もできました。パルシステムさまと同じようなオペレーションを行っている企業もたくさんあると思いますので、今回培ったノウハウをもとに、物流分野で幅広く展開することができそうです。

「TEKION LAB」全体で言いますと、これまで、暮らしの中の「ちょうどよい温度」=適温で3つの価値(3つのC)を提供していくことを目標に事業化を進めてきました。今回の物流分野への参入により、ようやく3分野でスタートを切ることができました。これからは、持続・拡大がもとめられるフェーズに移っていきます。材料技術などをさらに進化させ、より多くの温度帯の「適温蓄冷材」を開発し、早期に事業化を目指したいと思っています。

具体的には、Cheer(適度な温度の美食体験で楽しさを)分野での拡充に加え、Comfort(適切な温度で快適さを)分野では、入眠用途、医療系(痛み緩和)などの検討、そして、Confidence(最温度管理の物流で信頼を)分野では、再生医療(iPS細胞を使った再生医療では厳格な温度管理が必要)、血液(2~6℃)、医薬品やワクチン(2~8℃)などへの温度管理用として参入も検討しています。なかでもドライアイス代替蓄冷材の開発を進めていきたいと思っています。


― えっ?ドライアイス代替の蓄冷材ですか?

はい。現在、冷凍食品の配送が好調で、冷凍保冷輸送のためのドライアイスが深刻な原料不足の状態にあり、真夏には入手できないこともあります。そのため、ドライアイスの代替蓄冷材として、融点-25℃の代替蓄冷材が市場で一部利用されていますが、-40℃まで下げられる専用凍結庫が必要で、消費電力も膨大になります。

このドライアイス代替蓄冷材として、より凍結性能の優れた「適温蓄冷材」を開発可能だと考えました。今回の経験を踏まえると、適切な温度の「適温蓄冷材」を使えば、消費電力削減・CO2削減で大幅な優位性があります。現在、そのメリットが認められ、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成のもと、研究を進めています。

青果用「適温蓄冷材」は、春から秋にかけての保冷配送ですが、このドライアイス代替の「適温蓄冷材」は1年中活用されます。医療用としても使われ始めており、1,000億円とも試算されている大規模市場に参入すべく、開発を進めているところです。

「TEKION LAB」勢造さん(左) 、内海さん(手に持つのはパルシステムさまのキャラクター)

― 「TEKION LAB」はますます発展しそうですね。ありがとうございました。


取材を通じ「適温蓄冷材」が、単なる保冷を超えて、消費電力やCO2削減、働き方改革まで多くの効果をもたらすことが分かりました、液晶研究から生まれた不思議な氷は、物流革命を引き起こすだけでなく、今後、様々な分野での課題解消に役立つ大きな可能性を秘めていると感じます。

前回の内容はこちら

(広報担当:H)        

<関連サイト>

■ニュースリリース
業界初 青果専用の「適温蓄冷材」を用いた新配送システムの運用を開始

■「TEKION LAB」
「TEKION 適温 テクノロジー」
「TEKION LAB」公式サイト
チャレンジサイトNo.16:社内ベンチャー「TEKION LAB」のチャレンジ

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