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ワイヤレスイヤホン装着時の自動音楽再生は、近接センサのおかげなんです!-業界最小クラス※1 超小型近接センサ<GP2AP130S00F>を商品化-

2021年9月25日

著者:広報H

超小型近接センサ<GP2AP130S00F>(米粒とのサイズ比較)、右は搭載製品イメージ(ワイヤレスイヤホン) 

超小型近接センサ<GP2AP130S00F>(米粒とのサイズ比較)、右は搭載製品イメージ(ワイヤレスイヤホン)

“近接センサ”ってご存じですか?一見、私たちの生活には無縁のようですが、実はスマホやデジカメなどに搭載されていて、身の回りで役立つことが多くなってきています。例えば、スマホだと、通話時に顔がタッチパネルに触れて誤作動しないよう、顔が近づいたことを感知してタッチパネルの動作や画面表示がOFFになるのは、近接センサが搭載されているからなのです。

シャープでは、以前からスマホ・タブレット向けに近接センサを製造していましたが、この度、いま人気のワイヤレスイヤホンなど、より小さなウェアラブル機器向けに最適な、業界最小クラス1の超小型近接センサ<GP2AP130S00F>を商品化しました。

今回のブログでは、近接センサの開発・製造を担当している、シャープ福山セミコンダクター株式会社(以下、SFS)の担当者に、製品特長や業界最小サイズ実現への取り組み、今後の事業展開などを聞きました。

 上段 左より 商品企画部 係長 道中 誠司、センサー事業拡大部 係長 井上 高広、 下段 左より センサー事業拡大部 主任 西川 英敏、同 主任 工藤 広太、同 主任 金本 守人 * ともに、(SFS)セミコンダクター事業部 所属

上段 左より 商品企画部 係長 道中 誠司、センサー事業拡大部 係長 井上 高広、
下段 左より センサー事業拡大部 主任 西川 英敏、同 主任 工藤 広太、同 主任 金本 守人
* ともに、(SFS)セミコンダクター事業部 所属

※1 2021年7月19日現在、シャープ調べ。I2C (2本の信号線で通信する同期式のシリアル通信方式の規格)対応の近接センサにおいて。

 

― まず、近接センサというのはどういう仕組みではたらくのですか?

(道中)近接センサの基本的な仕組み(検出原理)について説明しますと、本体の赤外発光LED(発光素子)から赤外線を照射し、物体から反射して戻ってきた光を受光素子(OPIC)が検出します。この時、戻ってきた光量を電流に変換し、この電流の大小によって物体の有無を判定します。

ワイヤレスイヤホンには、耳に装着するだけで自動的に音楽が再生される機能を持つ商品がありますが、これは、近接センサの仕組みを、音楽再生のスイッチとして利用しているのです。反射光の量がある一定の値より多いと、耳に装着されたと判断して再生スイッチが入り、耳から外すと、反射光の量が減少するので音楽が止まる、という仕組みです。

今回開発した超小型近接センサ<GP2AP130S00F>は、こうした小型のウェアラブル機器での制御に適した製品であり、この仕組みを応用すれば、別の機能として、また、ほかのウェアラブル機器でも使用可能です。

スマホ搭載の近接センサの仕組み(検出原理) イメージ図

スマホ搭載の近接センサの仕組み(検出原理) イメージ図

 

― 今回、なぜウェアラブル機器向け<GP2AP130S00F>を開発したのですか?

(道中)ウェアラブル機器の需要は年々拡大しています。ワイヤレスイヤホン市場は2020年から2026年にかけて約2.5倍2に大幅伸長する見込みで、VRゴーグルやスマートグラスなどの普及も予想されています。こうしたウェアラブル機器向けとして、近接センサの大幅な需要拡大が期待されます。

シャープのデバイス事業は、国産初のテレビ(1953年)に使用されたチューナーを皮切りに約70年の歴史があり、特に、センサ事業には業界黎明期より参入しています。こうした長年のオプトデバイス開発を通じて培ったパッケージ技術や光信号処理技術を用いれば、他社に負けない、ウェアラブル機器に必要不可欠な小型・低消費電力の超小型近接センサを商品化できると考えました。

※2 富士キメラ総研による。ワイヤレスイヤホン市場は、2026年には2020年の約2.5倍に伸長すると予測。
<2020年:311百万台 → 2026年:776百万台> (2021年6月3日発表)
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP611669_T00C21A6000000/(日経新聞記事より)

  

― <GP2AP130S00F>の特長を紹介ください。

■ 主な特長
 ①超小型・低消費電流設計により、さまざまなウェアラブル機器への組み込みが容易
 ②耳などへの着脱を自動検知し、スイッチ操作なしにウェアラブル機器の制御が可能
 ③外乱光耐性が高く、屋外でも誤作動を気にせずに使用可能
 ④低クロストーク化を実現

(道中)

  • ①:さまざまな実装技術を組み合わせ、業界最小クラス1の本体サイズを実現しています。外形寸法は1.75×1.0×0.35 mm(幅×奥行×高さ)で、当社従来機種3と比べ面積比で約1/5、高さ(厚み)は約1/3と大幅に小さくなっています。同時に、平均消費電流Typ.40μA4の低消費電流設計によりバッテリーの長時間駆動を実現しています。これらの特長のおかけで、ウェアラブル機器商品化のデザイン設計の際に、より高い自由度を持たせることができました。低消費電力についても競合品に見劣りしません。

②:上述の近接センサの働きのところで説明していますように、耳に着脱すると自動検知して、音楽を再生するなどの制御をすることが可能です。

③:近接センサは、本体から照射した赤外線の物体からの反射光を利用していますが、ご存知のように太陽光にも赤外線が含まれており、そうした本体照射以外の赤外線の影響を受ける恐れがあります。そこで独自の外乱光ノイズキャンセル回路5を採用し、太陽光の下など、赤外波長成分が多い屋外環境6においても誤作動を抑制します。

(金本)
④:クロストークとは、③で話した本体以外の赤外線と異なり、本体から照射した余分な赤外線によってうまく検知できなくなる現象のことを言います。これについても、独自技術を用いて余分な光を拾わないよう対策を施しました。

井上さん(左)と金本さん

井上さん(左)と金本さん

※3スマホ向け従来機種<GP2AP110S00F>との比較。
※4 回路部(LSI)ならびに発光部(VCSEL)の消費電流の合計。
※5 特許第5823624号および特許第6072928号。
※6 実証環境:太陽光下10万Luxの場合において。

 

― この製品の最大の売りは業界最小クラスのサイズだと思いますが、実現に向けどんなことに取り組んだのですか?

(工藤)センサ内に実装されているOPIC(受光素子)についても、機能ブロックの形状や配置を一から見直すとともに、ブロック間の配線構造を3層から4層に増やすことで、従来機種比約1/5の限られた面積の中で効率的に実装できるようになりました。

 (西川)高さ(厚み)についてもサイズダウンを実現しています。本体内のOPIC(受光素子)チップの厚みを従来機種の0.25~0.15mmに対し、0.1mmまで大幅に薄くしました。部材だけでなく、薄型パッケージに対応した製造プロセスの再構築を行い、トータルで従来機種の約1/3の厚みを実現しました。
トータルで従来機種の約1/3の厚みを実現

 

西川さん(左)と工藤さん

西川さん(左)と工藤さん

(井上)<GP2AP130S00F>にはDual Slave Address機能が搭載されています。通常、こうしたセンサにはSlave Address(住所・番地のようなもの)が割り当てられています。高級タイプのワイヤレスイヤホンだと、精度を高めるためなどに、片方のイヤホンに異なる動作が必要な2つ近接センサが実装される場合があります。しかし、その2つのセンサが同じAddressのままだと、同じ配線から出た信号で両方ともに同じ反応をしてしまい、個別に動かせません。そのため、通常は、Slave Addressは1つでなく、違う信号へ切り替えるための追加端子(Slave Address変更用)があらかじめ取り付けられています。しかし、<GP2AP130S00F>は、回路端子の接続を入れ替えることで自動的に番地が変わるDual Slave Address機能を実装しているため、本体上にその追加端子のスペースが不要で、その分、小型化が可能になりました。

  

― 先ほど、独自技術を用いることでクロストークを低減したとの説明がありましたが、具体的にはどんな技術ですか?

 (井上)小型化の実現にも骨が折れたのですが、実は一番難しかったのはクロストークへの対応でした。小さくなればなるほど、そのトレードオフとしてクロストークの現象が出てしまうのです。

(金本)赤外発光VCSEL(面発光レーザー)から照射される赤外線は、照射方向である前面(基板に対して垂直)に光が射出される特性がありますが、完全にまっすぐというわけでなく、横方向へも少し光が照射され、その横方向へもれた光を受光部で受けてしまう可能性があります。従来の近接センサでは受・発光部に仕切りを入れ分離しているため、そうした光はカットされますが、本製品は超小型サイズのため、金型の設計上、仕切りを入れて分離させることは不可能でした。そこで、どのように光が移動するのかを分析し、本体内で乱反射した不要な光が集中する部分を把握。そこに遮光壁(赤外線カット樹脂)を形成することで、不要な光が受光素子に到達しないように対策しました。

超小型近接センサ<GP2AP130S00F>断面 クロストーク対策イメージ図 <①遮光壁を形成>

超小型近接センサ<GP2AP130S00F>断面 クロストーク対策イメージ図 <①遮光壁を形成>


(金本)
クロストークは、ほかに発光側窓の界面での反射光を原因とするものもあります。これに対しては、発光窓に傾斜を設けることで、反射光が受光素子側に行かないように解決しました。これら2つのクロストーク対策は特許を取得しています。

クロストーク対策イメージ図 <②発光窓に傾斜をつける>

クロストーク対策イメージ図 <②発光窓に傾斜をつける>

 

― 今後の展開について教えてください。

(井上)さらなる小型化・機能強化を進めるのはもちろんですが、脈拍測定を近接センサで対応できるよう開発を進めています。

 (道中)シャープの近接センサは赤外線検知方式を採用しているので、赤外線を利用して脈拍なども検知できるはずです。将来は、脈拍やSpO2(血中酸素飽和度)などを、耳などで気軽に測れるヘルスケアモニタリング用センサの開発も進めていきたいと思っています。SDGsの3番目の目標である「すべての人に健康と福祉を」につながるような、人に寄り添う安心・安全な製品を提供できればと考えています。

 

― ありがとうございました。

 


 
実物を手にしてみましたが、米粒以下の極小サイズに、さまざまな技術が詰め込まれていることに驚きました。私は、まだワイヤレスイヤホンを手に入れていないのですが、先日、今回ご紹介した近接センサが搭載されたワイヤレスイヤホンが海外で発売されました。国内でも同様の製品が発売されるかもしれません。その際は、ぜひ、購入してみたいと思います。

●超小型近接センサ<GP2AP130S00F>へのお問い合わせ
 ⇒シャープ福山セミコンダクター株式会社 セミコンダクター事業部 商品企画部 opto.devices@sharp.co.jp

(広報担当:H)

<関連サイト>

■ニュースリリース:ウェアラブル機器向け超小型近接センサを量産化

シャープ福山セミコンダクター株式会社(SFS)

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