”Be Original.” ~障がいのある人も、そうでない人も、働きやすい社会のために~
2018年4月16日
当社のコーポレート宣言「Be Original.(ビー・オリジナル)」について、社員たちがその受け止め方をそれぞれの仕事を通して語っています。
今回は、当社の特例子会社であるシャープ特選工業(以下、シャープ特選)の石垣さんに話を聞きました。特例子会社とは、企業が障がい者の雇用を促進する目的でつくる子会社のことです。
―まずはシャープ特選工業についてご紹介ください。
(石垣)シャープ特選の前身は、シャープの創業者の早川徳次が、1944年に戦争で視力を失った軍人の方を雇い入れ、盲人専用のプレス加工ラインとして設置した「早川分工場」です。その後、1950年に早川分工場の失明社員を独立させ、合資会社「特選金属工場」を設立、1977年には日本で第1号の特例子会社に認定されました。特選という社名には、当時早川創業者が「盲人が自立をして新しい職業を切り拓く時代が来る。皆さんは盲人の中から特に選ばれた”特選者”である」と失明社員たちを励ました思いが込められています。
早川創業者は不遇だった子供の頃、近所の全盲の婦人に助けていただいたことから、恩返しの気持ちもあって早川分工場を設立したということです。シャープ特選では、食堂など社員の目に触れるところに創業者の書を掲げているので、創業者の福祉に対する強い思いに日常的に触れることが自然に浸透しています。
食堂には創業者の「何糞」の書が掲げられています
会社の業務内容は、主にシャープ製品の部品の製造ですが、その他にも翻訳や書類の電子化、印刷業務など、多岐にわたっています。シャープからの発注だけでなく、他の企業からの仕事も積極的に受注しています。現在、社員は103名、そのうち60名に障がいがあります。
――石垣さんの業務について教えてください。
(石垣)大きく分けて2つあり、1つは社会貢献活動に関する業務です。全国の支援学校へ、講師として社員を派遣しています。支援学校の生徒さんが、障がいのある社員の話を直接聞くことで、将来自分が社会の一員となるイメージを描くきっかけを作っています。もう1つは、当社で働く人の採用に関連する業務です。社員の採用にあたっての関係先とのやりとりや、採用後の社員のフォロー、社内外の様々な調整などを担当しています。障がいのある方の採用の場合、障がいの特性によって配慮することが違ってきますので、そういったところに時間をかける必要があります。
――配慮とは具体的にどういうことでしょうか。
(石垣)例えば身体障がいのある社員は物理的な問題を解決する必要があります。車椅子を使っている人には、作業台を使いやすいように工夫するとか、作業時の動線を考慮するとか。耳の不自由な人とは、手話やメール、筆談でコミュニケーションをとります。耳の不自由な社員に教わって、手話ができるようになった社員も多いんですよ。
精神障がいや発達障がいの人は、どういった状況の時にしんどくなるのか、回避する方法や解決方法が1人ひとり違うので、じっくり話し合って、周囲の人とも情報を共有するようにしています。また、当社への就職を希望する人が支援を受けている団体があれば、本人の特性について連携をとりながら採用へと進めたり、採用後も双方からフォローしたりといったこともあります。SPIS(エスピス)という、精神障がい者などの方の雇用を支援するシステムも使っています。
――初めて聞きましたが、SPISとはどういったシステムなのでしょうか。
(石垣)簡単にいうと日報のようなものです。当社と同じように、障がい者を多く雇用している大阪のシステム会社さんが開発したシステムなのですが、日々の出来事に加え、自分自身の気持ちや体調などを入力でき、それがグラフ化されるような仕組みになっています。長期的に使うと、どういう時にしんどくなるのかといった傾向把握につながることもあり、障がい者本人だけでなく、周囲の人も対応しやすくなるんです。
体調などの状態がグラフ化され傾向がわかるSPISの画面
精神障がいのある人は、ちょっとした環境の変化にとても敏感なのですが、自分の思いを周囲に伝えることが難しい人も多く、SPISに随分助けられています。手書きの日報も使っていますが、このシステムだと本人の上司や外部支援機関の方など複数の人と情報を共有できるので、より対応がしやすくなります。
――障がいのある人が職場に定着するためには何が大切ですか。
(石垣)当社で働いて1年になる精神障がいの男性がいますが、彼はすごく不安になりやすいんです。そのため、小さいノートに仕事の手順をたいへん詳しくびっしり書きこんで、そのノートを何度も確認しながら作業を進めます。最初は周囲も「そこまでしなくてもいいんじゃないか」と感じたようですが、それが彼の個性なんだと受け入れ、ノートを見ながら確実に作業を覚え、少しずつノートを見なくても作業できるようにと見守りながら指導しています。
作業手順を詳しく記入したノート
また、彼は交代制で勤務していますが、実はこれは珍しいケースなんです。精神障がいの人は環境の変化に非常に影響を受けやすいので、一般的には勤務時間が替わる交代制の仕事は難しいと考えられています。でも彼のシフト時間を彼を担当するサポーターの社員に合わせ、常に一緒に作業できるようにしてみたところ、安心して作業に集中でき、交代制の仕事が可能になりました。個性を受け入れること、見守ること。そして社員同士の信頼関係。こういったことが大事なのかなと思います。
――異なる障がいのある人と健常者が同じ職場で働くのは簡単ではない気がします。
(石垣)そう思われる方が多いかもしれませんが、決してそんなことはありません。大変じゃないかと不安に思うのは、多分経験したことがないからだと思うんです。一緒に仕事することは全然難しくない。少し配慮が必要なだけです。一般的な会社でも、何もわからない新入社員には最初は仕事のやり方や会社のことを色々教えて、仕事しやすいように配慮しますよね。それとまったく同じです。
私には小学生の娘がいるのですが、ある日、私が残業していると、上司が「早く帰らなくていいの?」と言いたげにそわそわしていたんです。その時は実家の母が来てくれることになっていたので私としては問題なかったのですが、そのような上司を見て、配慮が障がいのある社員にだけでなく、すべての社員に向けられていることがわかり、嬉しかったです。それと同時に、自分の状況を周囲の方に伝え、共有することの大切さを改めて感じました。「今日は残業できます」とあらかじめ伝えていれば、上司も安心したと思います。普段、障がいのある社員の情報を共有しようと心がけているのに、自分のこととなると気がつかないものですね。
石垣さんの職場の様子
――配慮することでみんなが働きやすくなるということですね。ところで、個人的なことをお伺いしますが、石垣さんは転職してシャープ特選に入社されたと聞きました。それまではどんな仕事をされていたのですか?
(石垣)いくつか仕事をしてきましたが、特に障がいのある人と深く関わりがあったということはありません。ただ、海外旅行のツアーガイドをしたり、英会話学校で勤務したりしていたこともあって、世界にはいろんな人がいて、いろんな考えがあるということを、自然と理解していたようには思います。シャープ特選に入社した際は、翻訳の業務で採用していただきました。その後、社会貢献活動の仕事を任せていただくようになり、現在に至ります。
――障がいのある社員と接するために、必要な知識などはどうやって身につけたのでしょうか?
(石垣)他社で同じような仕事をされている方がお持ちだった「精神保健福祉士」という国家資格のことを知りました。調べてみると、仕事に活かすことができる資格のようでした。ただし、必要な単位を大学で取得することが受験の条件だったんです。そこで、思い切って通信制の大学に入学し、この資格を取得しました。
――大学に入学したと簡単におっしゃいますが、時間も費用もかかることですね。
(石垣)確かにどちらもかかりました!特に大変だったのが、病院や施設などでの28日間の実習が必修だったことです。最後まで履修できなかったら恥ずかしいので、上司には言わずに大学の勉強を始めたのですが、実習のために有休を取得せざるを得なくなり、初めて言いました。
でも大学で勉強して本当に良かったと思っています。実りのある4年間でした。大きく変わったことはありませんが、福祉学で学んだ理論や知識は、人に接する仕事をする上で大いに役立っています。さきほどお話しした実習もかけがえのない経験になりました。最初は、休みをとって長期間の実習に行くのが少し憂鬱だったのですが、終わるころには「もっとこの施設(実習先)で働きたい」と思ったほどです。それぐらい貴重な経験でした。
――先日、石垣さんがパネラーとして登壇した大阪労働局主催の「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を見学しました。
3月に開催されたセミナーの様子
(石垣)これは、職場に精神障がいや発達障がいのある人を迎えるにあたり、サポートできる人材を養成する目的で開催された講座です。さまざまな会社の採用担当者などが参加されていました。当社の事例をお話しすることにより、障がい者を採用するにあたっての不安が解消され、雇用の推進につながればと思って引き受けました。障がいのある方と企業との橋渡しになるよう情報発信していくことが、日本で特例子会社第1号に認定された当社の使命だと思っています。今後も、積極的にこういった取り組みを進めていきたいです。
――石垣さんは「Be Original.」をどう受け止めていますか。
私は仕事を通して、障がいのある社員が会社以外の生活でも社会性の幅を広げていくことが嬉しいんです。仕事は生活の基盤になるものなので、そこを充実させることが、趣味や人間関係などを豊かにする第一歩です。そのために、愛情をもって、仕事でご一緒する方に接していこうと思っています。
創業者 早川徳次は、大阪府心身障害者雇用促進協議会の会長を務めていたのですが、その会報誌の創刊号に寄せた言葉が残っています。
「局部的障害のために職を持つことのできない人々がいる。この人たちに何の罪がある訳はなく、能力に常人との差異がある訳でもない。ただ、世間の大部分から、差異があると信じられ誤解を受けている、気の毒な人々である。」
早川創業者は、障がいがあるのが気の毒なのではない、誤解されていることが気の毒なのだと言っています。そのうえで「少しの注意と断をもってすれば、潜在する優秀な労働力がただちに発見できる。それは企業者としても嬉しい発見であり、事業に志す者の社会的責務である」と語っています。能力を引き出すための工夫をし、勇気を持って決断すれば、障がいの有無に関係なく戦力になるということです。
まさに、障がい者雇用における「誠意と創意」です。私はこれを読んだときに、この仕事をしていくうえで、私のよりどころはここにあると思いました。何か迷ったら、ここへ立ち返ればいい。よりどころがあるというのは、働く者にとって、とても心地よいことだと思います。
――ありがとうございました。
目の前の壁を、壁と思わずに越えていくような軽やかさのある石垣さん。「障がいのある社員と仕事をするって、きっと大変なんだろうな」。お話をうかがう前、そんなことを考えていましたが、いい意味であっさりと裏切られました。見えていた壁は、自分の中にあったのかもしれません。
(広報担当:Y)
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