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シャープの「モスアイ技術」は「低反射」だけではない独自の進化した技術です!

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「モスアイ構造」(左上)、「モスアイ技術」採用のサングラス(左下)、シャープ製「フェイスシールド」(右)

皆さんは「モスアイ技術」って何のことだか分かりますか?

モス(Moth)は蛾、アイ(Eye)は目のことで、蛾の目(Moth-eye)という意味です。蛾の眼の表面には、ナノレベルの釣鐘(つりがね)状の突起(凹凸)が一定間隔で並んでおり、その形状により、外光の反射を抑えることが可能(=「低反射」)になります。そのため、蛾は暗闇でも自由に飛び回ることが可能なのです。

つまり、「モスアイ技術」とは「モスアイ構造」と呼ばれる、蛾の目を模した構造を活用した生物模倣技術です。例えば、透明なガラスなどの製品表面に「モスアイ構造」を施したフィルムを貼り付けることで「低反射」を実現します。

この特性を生かし、「モスアイ技術」を採用した製品として、シャープでは既に「フェイスシールド」に採用しています。
しかし、シャープの「モスアイ技術」には「低反射」だけではなく、曇りを防ぐ「防曇(ぼうどん)」や、水分をはじきやすくする「撥水(はっすい)」などの機能を、製品に搭載できるよう進化させており、アウトドア用サングラスやカメラレンズ用フィルターなどへの応用を進めています。

今回は、「モスアイ技術」開発担当 中松にシャープ独自の「モスアイ技術」の特長とその可能性について話を聞きました。

開発担当 中松(手に持つのは「モスアイ技術」が使われているシャープ製「フェイスシールド」)

 

― 「モスアイ構造」は外光の反射を抑えられるとのことですが、それはなぜでしょうか?

光の反射は、屈折率の異なるものの間で発生し、屈折率の差が大きいと反射しやすくなります。窓ガラスの場合、外光は空気→ガラスと通過しますが、この空気とガラスの屈折率が大きく異なるため、両者の境界のガラス表面で光が反射し、自分の姿など不要なものが映りこみます。「モスアイ構造」は、カーブを描いた釣鐘形の凹凸をしており、屈折率を連続的に変化させる効果があります。ガラス表面にこの「モスアイ構造」のフィルムを貼ることで、空気とガラス間で屈折率の顕著な差を緩和でき、外光の反射を抑制(反射率が低減)します。

左半分は表面に「モスアイ構造」のフィルムがないため、反射して人が映りこむ。

 

― シャープはなぜ「モスアイ技術」を進化させたのでしょうか?

2020年、感染症流行を背景とした衛生意識の高まりから、シャープグループでディスプレイ開発を担当するシャープディスプレイテクノロジー株式会社(以下、SDTC)はマスクに加え「フェイスシールド」の製品化を目指しました。医療処置、受付対応等で求められる映り込みを低減する技術として、以前から開発を進め、製品にも採用した実績がある「モスアイ技術」にたどり着きました。とは言っても、「低反射」だけでは差異化できません。新たな特長を模索する中、特殊素材を使用することで、「防曇」機能も発揮できることがわかり、当社の「フェイスシールド」に採用しました。お客様からは映り込みが少ないことに加え、曇りにくいと好評をいただきました。

また、SDTCはノンディスプレイ分野での新規事業化も目指していたことから、「モスアイ技術」をさらに進化させることにしました。

 

― では、シャープの「モスアイ技術」とは?

シャープの「モスアイ技術」は、液晶パネル開発で培った特殊加工(「モスアイ構造」と呼ばれる蛾の目を模した100200nmの微細単位の釣鐘状の凹凸構造)をフィルムに施すことで「低反射」などを実現します。

シャープの「モスアイ技術」を採用した「フェイスシールド」は、表面反射率約0.3%/面の「低反射」を実現しており、大幅に映り込みを防ぎます。

加えて、独自のアクリル系樹脂材料で「モスアイ構造」を形成することで、フィルム表面に付着した水滴や飛沫の表面積を素早く広げることが可能になり、温度差・高湿環境下で発生する結露や呼気による曇りを低減する「防曇」機能も実現します。

防曇機能を高める樹脂で「モスアイ構造」を形成したフィルムを右半分に貼り付けると、
右側に蒸気を多く当てても、左側のフィルムのない部分だけが曇る。

さらに研究を進めると、別のアクリル系樹脂で「モスアイ構造」にすると、雨などの水分があっても、水をはじく蓮の葉のように水滴が丸くなってコロコロと転がるような「撥水(水をはじく)」の特性を実現できることも分かりました。

撥水機能を高める樹脂で「モスアイ構造」を形成したフィルムの上に水をたらすと水滴状態に

つまり、シャープの「モスアイ技術」を使うと、「低反射」に加え、用途に応じて「防曇」もしくは「撥水」機能を製品に搭載できる独自技術です。なお、フィルムには、表面基材に高透過率のポリカーボネートを使用していますので、クリアで視界も良好です。このほかに、抗菌・抗ウイルスという点でも有効なことを実証しています。
まとめるとシャープの「モスアイ技術」の特長は以下の通りです。

●シャープの「モスアイ技術」の特長

(1)外光の映り込みを大幅に低減(低反射)
(2)高い防曇性能(曇りにくい)
(3)高い撥水性能(水をはじく)
(4)高透過クリア性能
(5)抗菌・抗ウイルス性能

※すべての菌・ウイルスに対しての効果を保証するものではありません。また、限られた試験環境での効果であり、実使用空間での実証結果ではありません。

 

― それは画期的です。さまざまな製品への応用が期待できますね。

現在、アウトドアメーカーのサングラス、クリーンウェア用シールド、ダイビングマスク用防曇シート、スキーゴーグル用防曇シートなどに採用されています。ほかにも、下の図にあるようにさまざまな応用商品が考えられ、具体的に検討しているものもあります。

シャープの「モスアイ技術」を採用し商品化されたサングラス
(画像はイメージです)

 

― 開発を進める上でのこだわりや大変だったことなどありますか?

お客様からはもっと防曇性能が高いものが欲しいとか、さまざまなご要望をいただきます。「こうしたい」「こうあるべき」と思いながら開発を進めると、お客様の要望とかい離したものになりそうなので、自分のこだわりは捨てて開発するようにしています。あえて言うとそれがこだわりかもしれません(笑)

大変だったことを一つあげるとすれば、アウトドア用の防曇シールドの開発です。調べていくと、かなり求められる条件が厳しいことが分かりました。密閉性が高い製品で使用されるので、「フェイスシールド」で使っていた防曇性能では弱くて使えません。さらに、雨が降った場合などに、水分が表面にべたっとにじんで見えづらくなることはNGです。にじまないようにしようとすると、撥水性を高めることになりますが、これでは曇りやすくなってしまいます。この相反するニーズを高いレベルで実現する必要があり、開発には苦労しました。見たことのない材料を取り寄せるなど、素材メーカーとやりとりしながら試行錯誤を繰り返し、また、フィルムの厚みなども調整を加えることで、やっと条件を満たす適切な材料の配合を見つけることができました。実は、防曇性能をもたらす材料は水分を少し吸収しているのですが、この防曇シールドは水分を吸収する量を多くすることでにじみを防ぎます。

このように、製品特長・ニーズに応じて材料の配合を変えながら、さまざまな製品へ採用されるよう開発を進めています。

 

― 最後に、個人的な想いなどあれば教えてください。

シャープには「モスアイ技術」のような電気を使わないノンディスプレイ技術があることを知って欲しいと思っています。そして、個人的には『モスアイ技術と言えばシャープ』と言われるほど、世の中にこの技術を拡げていきたいです。

 

― ありがとうございました。



以前、ブログで紹介した「AI Olfactory Sensor(AIにおいセンサ)」など、ディスプレイの要素技術をもとにした将来性のあるノンディスプレイ技術・製品が、まだまだシャープにはあることが分かり、嬉しく思いました。特に今回紹介した「モスアイ技術」応用製品は、身近なところで活躍してくれそうです。私もサングラスの購入を検討してみたいと思います。

(広報H)

<関連サイト>
シャープフェイスシールド(製品サイト)
モスアイ構造高性能フィルム(電子デバイスサイト)
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