これまで、昨年11月開催のシャープ初の単独技術展示イベント「SHARP Tech-Day」で注目された、「AI Olfactory Sensor(AIにおいセンサ)」や、独自のエッジAI技術「CE-LLM(Communication Edge-LLM)」を本ブログで紹介してきました。まだ紹介できていない技術・製品がたくさんありますが、なかでも、ぜひ実用化して欲しいと思う展示がありました。それが、「半導体レーザーによる害虫駆除システム」です。レーザー光線で飛行する害虫を駆除するもので、まるでSF映画のようですよね。
今回は、その特長と、なぜ実用化を考えているのか、そして、本当に実現可能なのか、半導体レーザー事業を担当するシャープ福山レーザー株式会社(以下、SFL)の企画担当 石井に取材しました。
― 半導体レーザー自体がよく分からない方もいると思いますので、まずは半導体レーザーについて説明をお願いします。
半導体レーザーとは、半導体の回路素子に電流を流すことでレーザー光を発生する光源です。自然界にある普通の光は、波が不連続で光の進む向きが一定方向に揃っていませんが、レーザー光は波が揃っているため、高いエネルギー密度をもって遠くまで直進するという特性を持っています。
半導体レーザーは、CD/DVD/ブルーレイ等の装置の光ピックアップ(読み込み・書き込み用)や、レーザープリンター(感光)、レーザーポインター(照射)、さらには、材料切断の加工用途、土地の凹凸を測るレーザーレベラーなどに用いられています。
― 「半導体レーザーによる害虫駆除システム」とはどういったシステムですか?
高出力な青色のレーザー光線を照射することで害虫を駆除するものです。
レーザー製品の応用先を検討する中で農業分野でのレーザー利用を考えており、「SHARP Tech-Day」では技術コンセプトとして出展しました。
従来の害虫駆除では主に農薬が使用されてきましたが、本システムでは、農薬を使用しないため、薬液のコストや散布の手間が削減できるだけでなく、環境に配慮した害虫駆除が実現できます。
― 駆除できる害虫は?
主に蛾やバッタを想定しています。農作物の代表的害虫であり、農薬で駆除していますが、農薬使用に関しては規制が強化される方向のため、レーザー光による本システムへのニーズは高いと考えています。
また、蛾などの体の色は、茶色と淡褐色で構成されているので、青い光の吸収効率が高いと言われています。それで青色の半導体レーザーを用います。
― では、なぜ「半導体レーザーによる害虫駆除システム」を進めようと思ったのですか?
SFLが手掛ける半導体レーザーは、DVDやブルーレイ用の光ピックアップなど使用シーンが限られ、市場拡大が容易でないため、常に新しい応用製品を探しています。未参入の農業分野なら大きな需要が見込めるのではないかと考えていたところ、光が遠くまで直進し、エネルギー密度が高いという半導体レーザーの特性を活かし、レーザーでの害虫駆除にたどり着きました。実際、世の中で農薬を使用せずに、青色レーザーを使った害虫駆除の研究開発が実施されており、当社も農業に携わる方々に役立つ製品を創出できればと考えています。農薬不使用による安心・安全な農作物を提供することは、シャープの方針「ESG(環境・社会・ガバナンス)に重点を置いた経営」とも一致するものです。
― 実際、実現可能なのですか?だとすれば実用化はいつ頃になりそうですか?
非常に難度の高い技術であり、現時点では実用化された事例は耳にしていません。また、技術的な課題に加え、高出力レーザーを用いることから、安全性の確保が求められます。技術的には、高出力のレーザーデバイスおよびモジュールを試作済みであり、実現可能だと考えています。
安全面については、例えば、人がいる場合はレーザー照射しないフェールセーフ機能※の搭載や、ビニールハウスのような人がいない場所での適用の可能性を並行して検討していきます。
もちろん、数年で実用化できるほど簡単ではありませんが、新規応用製品に向けた期待も大きいと感じていますので、ぜひ早期に商品化していきたいと考えています。
※ フェールセーフ機能: 故障や異常発生などのトラブルが発生した場合に危険回避のために働く安全制御機能のこと。
― なるほど。技術的な裏付けがあるのですね。
はい。本システムでは出力7Wの青色(波長:440nm)の半導体レーザーを使用しますが、当社の青色レーザーはこの波長域では業界最高レベルの出力です。
また、少し難しい言葉を使いますが、半導体レーザーは、不純物や欠陥のない、結晶軸が揃った結晶層を成長させる「エピタキシャル成長技術(エピ結晶技術)」を用いてレーザーチップを作製します。これは、半導体レーザーの出力アップや電力変換効率向上(低消費電力化)、信頼性向上(長寿命化)につながる最も重要な工程なのですが、当社は業界最高レベルのエピ結晶技術を持っています。こうした技術が、機器の小型化、低消費電力化をはじめとする害虫駆除システムの実用化のキーになると考えています。
― 本システムを応用した製品も考えられるのでは?
そうですね。今回は害虫駆除をユースケースとして検討しましたが、例えば、ネズミや鳥など、対象が嫌がる光を照射することで忌避させるといったことも可能だと思います。
また、青色レーザー光は、銅への吸収率が高く、銅の加工用に適しています。青色レーザーの高出力、高効率、高信頼性の取り組みを継続することで、レーザー加工機などへの領域にも応用できると考えています。
― 今後の展開や個人的な想いなどあれば教えてください。
「半導体レーザーによる害虫駆除システム」は農業分野での製品ですが、今後は、医療、美容など新規分野への参入も検討したいと思っています。
個人的には、自社のレーザー製品で人々の快適で豊かな生活に貢献する製品を企画したいです。なかでも、女性目線を生かして美容分野での企画を進めることができたら良いですね。
― ありがとうございました。
「半導体レーザーによる害虫駆除システム」は本当に実現できるのか、興味津々で取材を行いましたが、実際に実用化に向け開発が進んでおり、期待が高まりました。
また、虫嫌いの私にとって、夏の夜、明るい場所に虫が集まることに対して、何とかならないかと常々思っていました。こういったシーンで、虫の嫌がる光を照射して、虫を寄せつけないシステムなども検討して欲しいと思いました。
(広報H)
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