構造色って何?「8Kインタラクティブミュージアム」の新技術について聞いてみた!
2022年6月13日
博物館で文化財などを鑑賞するとき、多くの場合はガラス越しだったり、距離があったりします。また、照明は少し暗めで、これは文化財の劣化を極力防ぐための配慮と理解はしてはいるのですが、やはり間近でじっくり観たいと思いますよね。
シャープは、そんな思いに応えるべく、貴重な文化財を人の目の解像度を超えるといわれる8Kの高解像度で表示し、かつ解説などの付加情報を添えて見る人の理解をサポートする「8Kインタラクティブミュージアム」というソリューションを展開しています。今回、「8Kインタラクティブミュージアム」において、「構造色」を高精細8Kの3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)で表現する手法を開発しました。
この手法を用いた新しいコンテンツを含む、6種類の名茶碗を収録した「8K文化財鑑賞ソリューション」が、3月15日から愛知県陶磁美術館※1で展示されています。
※1 愛知県陶磁美術館についてはWebサイトをご覧ください。
「構造色」とはどんな色か、また、高精細8Kの3DCGでどのように表現したのか、シャープマーケティングジャパン株式会社BSデジタルイメージング営業推進部の奥本に聞きましたので、紹介します。
構造色とはどんな色でしょうか?
構造色は色素や顔料による発色とは異なり、物体自体は固有の色を持たず、物体表面の微細な構造によって特定範囲の波長の光が反射されることによる発色現象です。見る角度や光の当たり方によって色が変化するのが特徴で、シャボン玉の油膜や宝石のオパール、昆虫のタマムシの外殻、アワビの貝殻の内側、カワセミの羽など、さまざまな物に見られます。
「構造色」を8Kの3DCGで表現する手法を開発しようとしたきっかけは?
もともと、2020年3月に高精細8Kの2D(2次元)画像で法隆寺の文化財を鑑賞できるシステムとして「8Kインタラクティブミュージアム」を納入したのですが、この中にタマムシの外殻を使用している国宝「玉虫厨子」(たまむしのずし)がありました。そのとき、「構造色」という見る角度によって色合いが変わる現象があることを知り、その美しさを、高精細8Kでもっとリアルに再現するためには、3DCGと構造色への対応が必要と感じたのがきっかけです。
その後、文化財活用センター※2および東京国立博物館※2との共同研究により開発した「8K文化財鑑賞ソリューション」※3の進化版を納入するにあたり※4、九州国立博物館※2所蔵の「構造色」を持つ重要文化財「油滴天目」(ゆてきてんもく)が新コンテンツのひとつとして選ばれたことで、今回の構造色対応の開発が実現しました。
この開発により、タマムシの外殻やアワビの貝殻を使った螺鈿(らでん)※5で見られる構造色を含むさまざまな文化財のコンテンツ作成も可能となりました。
※2 独立行政法人 国立文化財機構に属します。
※3 SHARP Blog:博物館展示の新たな可能性! “8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」”展に多くの方に来訪いただきました。
※4 文化庁「令和3年度 地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト)」により文化財活用センターが制作したもの。
※5 漆工芸の技法の一つ。アワビの貝殻などの真珠光を放つ部分を磨いてすり、平らにして切り、文様の形に漆器や木地にはめこんで装飾とするもの。
開発した「構造色」の表現手法とは?
一般的な3DCGでは、見る角度によって物体の色が変化する様子を忠実に再現することは難しく、ましてや高精細8Kのクオリティでそれを実現することは未知の挑戦でした。
今回、構造色の表現手法の開発にあたり、茶碗の底部から縁に至るまでの微妙な色の変化や青の深みを再現するために、学校法人法政大学 情報科学部 ディジタルメディア学科 実世界指向メディア研究室の小池崇文教授にご協力いただき、3DCGの表示パラメータを構造色の表現ができるように拡張しました。
具体的には、構造色の特性である材質や見る角度によって変化する色味を表すデータを調整しつつ色空間(色域)も拡張し、色温度、薄膜下の材質指定などのパラメータを定式化してCGに反映できるようにしました。
調整できるパラメータを増やした分、組み合わせも多くなり、チューニングも複雑になりましたが、色味の再現性が大幅に向上しました。将来的に対応できる作品を広げていく足掛かりにもなったと思います。
他に苦労したところはありますか?
「油滴天目」には構造色以外にも押さえるべき多くのポイントがありました。銀色に近い油滴の輝き感や覆輪(ふくりん)※6の金色の輝き、釉薬(ゆうやく)表面の濡れた感じのつや感、釉薬がかかっていない高台の土の質感など、1つの茶碗の中に異なった多くの質感が存在し、それらひとつひとつのクオリティを高めていくパラメータの調整作業にも多くの時間を要しました。茶碗を傾けたときに釉薬表面に現れる虹色の反射を再現するのにも、多くの試行錯誤が必要でした。
※6 器物の縁取りに金属の類を配置して飾りや補強としたもの。
こうして作り上げた3DCGですが、普段から文化財を見慣れている学芸員の方々にもチェックしていただき、そのイメージに近づけていくのにさらに何度も修正が必要でした。
イメージは人間の感覚で捉える部分のため、それらを共有し、実現するのに時間がかかりました。九州国立博物館には、これらを理解するために、動画と画像を提供していただきました。そして多くの要素を3DCGに反映し、それらが複雑に絡み合ったからこそ、本コンテンツのリアリティが高まり、最終的には学芸員の方々にも納得いただくことができたと思います。
今後も「8Kインタラクティブミュージアム」のコンテンツ拡充に取り組み、文化資源の8Kデジタルアーカイブ化を促進していきたいと考えています。
――ありがとうございました。
冒頭でお伝えしたとおり、「油滴天目」の3DCGは、愛知県陶磁美術館で公開中の「8K文化財鑑賞ソリューション」(展示名:8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」)でご覧いただけます。これまで難しかった「構造色」や高解像度8Kの3DCGよる再現手法で実物により近づいた「8Kインタラクティブミュージアム」を楽しんでいただけるとうれしいです。
また、今回の開発のきっかけとなった「玉虫厨子」も、最新の技術で撮影し直せばより素晴らしいコンテンツになるのでは? と思ったのですが、残念ながら実物にはタマムシの外殻があまり残っておらず、構造色の再現の観点からの3DCG効果はあまり期待できないそうです。一方で、作られた当初の状態を想定したレプリカも製作されていますので、当社の技術で、作品本来のイメージを再現するデジタルレプリカを製作する可能性もあるのではないかと感じました。
(広報C)
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