突然ですが、「TEKIjuN(適潤)」って何かご存じですか?
皆さん、野菜や果物、清涼飲料水などを冷蔵庫に入れますよね。それは食品や飲料の傷みを防ぐだけでなく、おいしく感じる温度にするためでもあります。そして、モノには温度だけではなく、品質を維持するのに最適な湿度も存在するんです。湿度が高すぎると結露が起きてカビが生える可能性がありますし、逆に湿度が低すぎると乾燥でひび割れが生じることもあります。
そこで活躍するのが、当社が独自開発した、固形状として世界で初めて※1、密閉空間を最適な目標湿度に調節・維持できる調湿材「TEKIjuN」です。これまでは最適湿度に調整する簡易的な手段はありませんでしたが、「TEKIjuN」は大切なモノを、手間をかけずに多湿や乾燥から守る、しかも、シャープなのに電気を使わない、ユニークな製品なのです。
- ※1 当社調べ(2022年1月18日)。
今回は、開発した研究開発事業本部の担当者の取材を通じて、「TEKIjuN」開発のきっかけやメカニズム、特長、活躍が期待されるシーンなど、2回に分けて紹介します。
― 「TEKIjuN」開発のきっかけは?
(鎌田)夏の暑い時、同じ温度でも湿度が低いほうが涼しく感じますよね。人は湿度の違いで体感温度が変わるので、快適さを感じるには温度だけでなく、湿度も重要なんです。そして、人に快適な湿度があるように、世の中の様々なモノには、それぞれ最適な湿度があります。当社は、温度について、電気を使わずにモノを適正な温度「適温(TEKION) 」に保つ、TEKION LAB※2開発の「適温蓄冷材※2」を製品化しています。それなら、湿度をコントロールする材料も開発してみてはどうかと考え、2015年から本格的に研究を始めました。
- ※2 TEKION LABは、研究開発事業本部内に発足した当社初の社内ベンチャー組織。ここで開発された適温蓄冷材は、「-24℃~+28℃(開発中の温度帯のものを含みます)で融け始める氷の状態で蓄冷できる」という特長を持ちます。例えば、「3℃適温蓄冷材」の場合、3℃で融け、固体から液体に変化します。この時、周囲の熱を吸収することにより材料自体のみならず、周囲の空気や接触している対象物を特定の温度に保持する機能を有します。その対象物に適した温度帯の材料を使うことで、食品に適した温度の保持、暑熱対策、医薬品や青果の冷蔵輸送等に使用されています。最初に実用化したのは、2014年に停電対策として開発されたインドネシア市場向け冷蔵庫用蓄冷材です。
(越智)当時、湿度に対してまだあまり知見を持ち合わせておらず、湿度を調整・維持する材料とはどんなものなのかと常に考えていたのですが、ある時、「人間の肌って、なぜ潤いが保てるのだろう」との疑問が浮かんできまして・・・。そこから、「肌の保湿成分が参考になるのではないか」と考え、これをヒントに液体調湿材の開発をスタートしました。しかし、液体だと思うような形状にできませんし、液漏れのリスクもあるので、固形状に出来ないかと考えるようになりました。ある日、液体調湿材を樹脂に染み込ませることを思いつき、それから、樹脂と相性が良い材料の開発に成功したことで、固形状の「TEKIjuN」が誕生したんです。これだと、樹脂の形状を変えることで意図した形に成形することができます。
(香村)実は、私は、先に実用化したTEKION LABの開発グループから2021年の春に異動してきました。そこで経験した量産化や事業化のノウハウが、「TEKIjuN」の製品化に役立っていると感じています。「適温蓄冷材」と「TEKIjuN」は、異なるグループで開発したのですが、電気を使わずに機能する材料である点や、水の相転移※3を利用する点など共通する部分は多いです。
- ※3 相転移とは、同一の物質でも、温度や圧力の変化により物理的な性質が異なる状態に変化する現象。1気圧で、水(液相)は100℃で水蒸気(気相)になり、水を冷やすと、0℃で氷(固相)になる。
― 「TEKIjuN」の湿度調節メカニズムを簡単に説明してください。
(香村)少し難しい言葉ですが「平衡湿度特性」という性質を持つ材料を活用しています。乾燥環境なら水分を放出して湿度を上げ、多湿環境なら水分を吸収して湿度を下げます。この吸放湿を絶えず行い、湿度のバランスを保っているんです。
液体調湿材は配合を変えることでさまざまな湿度帯に設定できるので、モノに応じて最適な目標湿度を実現できます。
― 「TEKIjuN」の特長を教えてください。
(香村)先ほど、モノには「最適湿度」が存在すると言いましたが、例えば、バイオリンなどの木製楽器やカメラの場合は40~50%RH※4、ワインやお米は60~70%RH、野菜や果物などの青果は80~90%RHと、品質を維持するのにそれぞれ適切な湿度域で保管・保存する必要があります。
- ※4 RH:相対湿度(relative humidity)。空気中に存在可能な水分の最大質量(飽和水蒸気量)に対する、実際に存在する水分の割合(単位:%RH)。飽和水蒸気量は温度で異なり、存在する水分が同一質量でも、温度が異なれば、相対湿度は変化します。
さらに、空間内の湿度は外気温によっても変動するため、最適な湿度の維持には、従来はシリカゲル等の乾燥剤に加えて、空調機器などの電源を必要とする機器を設置しなければならないケースもありました。
また、目標湿度に調節可能な液体の調湿材は存在していたものの、液漏れのリスクから特殊な包装が必要となるなど、コストや手間がかかるもので、簡易な湿度調整手段ではありませんでした。
しかし、「TEKIjuN」は、保管対象物と同じ密閉空間内に設置するだけで、その空間を40~90%RHの範囲で目標湿度に調節・維持します。外気温に関わらず、保管対象物に適した理想的な湿度環境を提供できるほか、液体調湿材を樹脂に染み込ませて固形状にしたことで、従来品に比べ容易に扱え、電源も不要です。
また、用途に応じてビーズ型とシート型の2種類から適切な形状にて提供します。
なお、欧州の特定有害物質の制限に関する規格RoHS※5などに対応した材料を採用しているほか、日本の毒物及び劇物取締法※6に該当するような有害な物質も使用していませんので、安心してお使いいただけます。
- ※5 RoHS(Restriction of Hazardous Substances Directive:危険物質に関する制限令)とは、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州連合(EU)指令のこと。
- ※6 毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とする法律。急性毒性などに着目して、毒物や劇物を指定し、製造、輸入、販売、取扱いの規制を行うことを定めている。
― ビーズ型とシート型の違い(形状別の特長)とは?
<ビーズ型>
(越智)まず、ビーズ型は吸放湿できる水分量が大きいことが特長です。吸放湿できる許容量が大きいと言った方が分かりやすいかもしれません。そのため、より長期的な効果が期待できます。
従来から湿度調節に使われている乾燥剤や、紙おむつに使用される高吸水性樹脂より、さらに吸放湿できる水分量が大きいため、維持できる時間が長くなります。
<シート型>
(鎌田)一方、シート型は吸放湿速度に優れているため、急激な湿度変動にすばやく対応でき、結露を抑制しやすくなります。吸放湿速度は乾燥剤としてよく使われるシリカゲルBの約4倍です(ビーズ型はシリカゲルBの2倍、シート型はビーズ型の2倍)。また、薄くて軽く、自由な形状に裁断できる上に、貼ったり、折り曲げて設置したりと非常に扱いやすい製品です。夜間や早朝に結露抑制のため水分を多く吸湿しても、日中に太陽の熱などで自然に放湿しますので、繰り返しての使用が可能です。
シート型は、2枚の不織布の間にパウダー状にした調湿材をサンドイッチした構造になっており、ビーズ型同様、目標湿度への調整が可能です。
― ビーズ型とシート型の2種類あることで、活躍の場が広がりそうですね。
<次回に続く>
湿度というと、思い浮かぶのはお菓子の乾燥剤や、冬場にドアや窓に水滴がついて煩わしいなと思うぐらいで、今まで、あまり意識したことがなかった気がします。しかし、今回の取材でモノには最適な湿度があることがよく分かりました。快適に過ごしたり、モノを良い状態で保存したりするために、湿度にもっと注意を向ける必要があると実感しました。
次回は、具体的にどんな場面でお役にたてるのかを説明するとともに、「TEKIjuN」初の納入事例などを紹介します。
●「TEKIjuN」のお問い合わせ:Info_tekijun@sharp.co.jpまで
(広報H)
<関連サイト>
■SHARP Blog
■ニュースリリース
目標湿度に調節・維持する調湿材『TEKIjuN』を島村楽器に納入
固形状として世界初、密閉空間を目標湿度に調節・維持する調湿材『TEKIjuN(適潤)』を開発
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