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当社独自開発の「3℃適温蓄冷材」で、ワクチンなど医薬品の定温物流分野へ参入①
ースギヤマゲンさまと医薬品向け「定温輸送容器セット」を共同開発ー

医薬品向け「定温輸送容器セット」         「3℃適温蓄冷材」

     医薬品向け「定温輸送容器セット」           「3℃適温蓄冷材」

最近のみなさんの関心事の一つに、新型コロナウイルスのワクチン接種があるのではないでしょうか。日本でも国民の1割以上が必要とされる2回の接種が完了するなど、ワクチン接種が進んでいます。実は、そのワクチンをはじめとする医薬品の冷蔵輸送に当社製品が活用されているのをご存知ですか?
といっても、電気製品ではなく、液晶材料の研究で培った技術を応用し開発したもので、水をベースとした”不思議な氷”「適温蓄冷材1」です。

当社は、医薬品の冷蔵輸送に適した「3℃適温蓄冷材」を開発。株式会社スギヤマゲン(以下、スギヤマゲン)2さまの温度設計技術と組み合わせて共同開発した医薬品向け「定温輸送容器セット」今年1月5日にスギヤマゲンさまより発売されました。
今回は、スギヤマゲンの藤井さま、当社「TEKION LAB」の内海、池田の3名から話を聞きました。「3℃適温蓄冷材」や「定温輸送容器セット」の特長、共同開発の経緯、新型コロナウイルスワクチン輸送での活用などについて、2回にわたりご紹介します。

左より 株式会社スギヤマゲン 機能容器事業部長 藤井 健介さま、  当社 社内ベンチャー「TEKION LAB」代表(Smart Appliances & Solutions事業本部 国内スモールアプライアンス事業部 パーソナルソリューション企画開発部 課長)内海 夕香、同 技師 池田 有佑

左より 株式会社スギヤマゲン 機能容器事業部長 藤井 健介さま、
当社 社内ベンチャー「TEKION LAB」代表(Smart Appliances & Solutions事業本部 国内スモールアプライアンス事業部
パーソナルソリューション企画開発部 課長)内海 夕香、同 技師 池田 有佑

※1 「適温蓄冷材」は、シャープの社内ベンチャーとしてスタートした「TEKION LAB(テキオンラボ)」が液晶材料の研究で培った技術を応用して開発しました。「-24℃~+28℃(開発中の温度帯のものを含みます)で融け始める氷の状態で、融けきるまでその特定の温度を保つ(蓄冷する)ことができる」という特長を持ちます。

※2 株式会社スギヤマゲン(https://www.sugiyama-gen.co.jp/)代表者:代表取締役 杉山 大介、所在地:東京都文京区本郷2-34-9、臨床検査器材販売、感染対策機器販売、環境分析機器販売、理化学ガラス器具販売、ステンレス容器販売、定温輸送容器販売などを事業内容とする。

 

― まず、「3℃適温蓄冷材」について説明ください。

(内海)「3℃適温蓄冷材」は水をベースとしたシャープ独自の蓄冷材です。-15℃で凍り、3℃で融けます。蓄冷材が固体から液体に変化する時、周囲の熱を奪うので、蓄冷材だけでなく周囲の空気や接触している対象物も3℃に保ちます。この辺りの温度帯では世界トップレベルの潜熱3量で、医薬品輸送でよく使われている4~5℃パラフィン系蓄熱材などと比べても、その温度を維持する時間が長いことも特長です。
「適温蓄冷材」についての詳細はこちら ⇒ 「TEKION 適温 テクノロジー」サイト

※3 固体から液体へ、液体から気体へ(あるいはその逆)​物体が変化するとき、 温度上昇を伴わないで状態が変化する際に費やされる熱のことをいい、潜熱量が大きいほど、その温度を保つ時間が長くなります。

 

― では、両社が共同開発することになったきっかけを教えてください。

(内海)「TEKION LAB」では、「食」・「ヘルスケア」・「物流」の3分野において、適温で価値を提供することを目標として事業化を進めてきました。まだ「物流」分野で具体的な製品展開ができていなかった2016年ごろ、医薬品輸送なら大きな可能性があると判断し、血液などの輸送に求められる2~6℃の範囲から3℃に絞り、「3℃適温蓄冷材」の開発を始めました。

「物流」分野への手掛かりを探す中、2018年に、取引のあった商社から、医薬品の輸送容器販売などの物流関連事業を行うスギヤマゲンさまを紹介いただきました。同年7月、「TEKION LAB」の拠点を置く千葉県の柏事業所にて、社長の杉山さま・機能容器事業部長の藤井さまに、開発の目途がつきつつあった「3℃適温蓄冷材」を説明したところ、興味を持っていただけました。その後、機能容器事業部で1年ほど検証し、「3℃適温蓄冷材」が活用できそうだとご判断いただいたことで、共同開発がスタートしました。

 

― 藤井さまは、なぜ当社の「3℃適温蓄冷材」に興味を持たれたのですか?

(藤井さま)医薬品の輸送には、検体・ワクチン・細胞などは2~8℃、血液は2~6℃を超えないよう厳格な定温管理が必要で、当社には、1~5℃のニーズもありました。しかし、どの用途にも共通で使える2~5℃という温度帯で定温管理ができ、加えて、下限(2℃)や上限(5℃)ぎりぎりでなく、その間となる3℃を保つ蓄冷材はこれまで世の中にありませんでした。

 

― 医薬品向け「定温輸送容器セット」開発の目的とセットの構成を教えてください。

(藤井さま)「3℃適温蓄冷材」を用いた輸送容器を商品化すれば、医薬品の輸送に携わる方にとって、シンプルでより効率的な運用が可能になると考えました。構成は以下の図の通りです。

 

― 医薬品向け「定温輸送容器セット」の特長をご紹介ください。

(藤井さま)以下の通り、主に2つの特長(詳細はこちら)があります。

 ①検体・ワクチン・細胞などの2~8℃と血液配送の2~6℃の両方の定温管理に適用できる

 ②業界初4 待機時間が不要、かつ年間を通して同一運用が可能

まず、「3℃適温蓄冷材」は、ワクチンなどや血液の両方の温度帯での定温管理輸送に使えます(特長①)ので、用途別に異なる容器セットを準備する必要がありません。

次に特長②について詳しく説明します。

「定温輸送容器セット」特長② 「業界初※4 待機時間がなく、年間を通して同一運用が可能」

「定温輸送容器セット」特長② 「業界初※4 待機時間がなく、年間を通して同一運用が可能」

医薬品の輸送では、下限(2℃)・上限(血液6℃/ワクチンなど8℃)を超えないよう厳格な定温コントロールが求められることから、蓄冷(保冷)と蓄熱(保温)の両方の機能が不可欠です。例えば、一般的な保冷材である0℃(で融ける)蓄冷材と、パラフィン系4℃蓄熱材などを上手に組み合わせて使用するのが一般的です。 

当社(スギヤマゲン)でも0℃蓄冷材を使用していますが、融点が2℃より低いため、パラフィン系4℃蓄熱材を同時に使用しても、外気温が低い冬には下限の2℃を下回るリスクがあります。そのため、冬には4℃蓄熱材だけを使用するなどの対応を取っていました。一方、4℃蓄熱材のみの使用だと、外気温が高い夏には上限の8℃を超えてしまうリスクがあります。

このように、夏と冬で構成を変更するのはもちろん、場合によっては、春などに比べ夏は蓄冷材を倍にするなど、季節や外気温にあわせて保冷温度の設定や蓄冷材・蓄熱材の量・組み合わせを調整する必要があり、実際に輸送を行う現場の担当者の負担となっていました(上記「定温輸送容器セット」特長②の図 課題①)。しかし、3℃適温蓄冷材」は融点が管理温度内の3℃ということ。そして、上限8℃と融点3℃の温度差に余裕があり、外気温が高くても上限8℃を超えるリスクが小さいこと。さらに保冷性能がパラフィン系よりも高いという特性があることから季節や外気温にあわせた調整が不要になり、オールシーズン同じオペレーションで対応できます。35℃環境なら48時間温度を維持することが可能です。

新開発「定温輸送容器セット」は年間を通して同一運用が可能

加えて、輸送前には蓄冷材・蓄熱材を低温で凍結させるのですが、凍ったまますぐに輸送容器に入れると、温度が低くなりすぎてしまうため、これまでは適切な温度に上昇するまで1~2時間の待機時間が必要でした(上記「定温輸送容器セット」特長②の図 課題②)。しかし、当社(スギヤマゲン)は、蓄冷材の冷気を蓄熱材に吸収させ、さらに均一な温度の保冷空間を作り出すアルミの仕切りを使うことで待機時間ゼロを実現する特許を持っています。そのノウハウを今回の製品に生かすことで、梱包前待機時間ゼロを実現しました。

梱包前の待機時間をなくすスギヤマゲンさまの運用

※4 2020年12月24日現在、スギヤマゲン調べ。

 

― 「3℃適温蓄冷材」、それを用いた「定温輸送容器セット」が画期的な技術・製品であることがわかりました。開発に苦労したのではないですか?

<「3℃適温蓄冷材」について>

(池田)はい。いままで「10℃適温蓄冷材」や「12℃適温蓄冷材」などを実用化してきましたが、「3℃適温蓄冷材」はこうした他の温度帯のものより格段に難しいんです。融点が3℃からずれないで一定を保つためには、凍結するときにきちんとした結晶構造にする必要がありました。他の温度帯のものよりも厳密に行わなければならず、結晶構造をできるだけ維持する材料のブレンドを見出すのに非常に苦労しました。さらに、試作レベルではなく、それを実用(量産)化する必要がありましたので、スギヤマゲンさまにご満足いただける製品に仕上げるために時間がかかりました。

「TEKION LAB」で「3℃適温蓄冷材」の開発を主導した池田さん

「TEKION LAB」で「3℃適温蓄冷材」の開発を主導した池田さん

 

<「定温輸送容器セット」について>

(藤井さま)「3℃適温蓄冷材」は、本当に優れた特長を持っています。しかし、先ほどもお話ししたように、医薬品輸送には下限・上限の温度を超えないよう蓄冷と蓄熱の両方の機能が必要で、「3℃適温蓄冷材」は蓄熱(保温)の機能がありません。外気温が低すぎると、2℃未満に冷えるのを抑えづらいという弱点があり、それを補うべく蓄熱材とのパッケージングを考えました。初めての素材ですし、従来使っていた0℃蓄冷材とは温度帯が異なるので、いままでのデータは役に立ちません。蓄熱材の面積・分量・ポジションなど何度も検証を重ねました。

「定温輸送容器セット」での「3℃適温蓄冷材」使用について<br/>検証を行う スギヤマゲン藤井さま

「定温輸送容器セット」での「3℃適温蓄冷材」使用について検証を行う スギヤマゲン藤井さま

「3℃適温蓄冷材」はパラフィン系蓄熱材より低価格ですし、「定温輸送容器セット」は、蓄熱材自体の使用量も従来の半分以下で済むので、低コスト・効率的な製品になりました。お客様からも好評ですし、チャレンジした甲斐がありました。

 

― 好評の「定温輸送容器セット」は、新型コロナウイルスワクチンの輸送にも使われているんですよね。

(藤井さま)発売後間もない今年2月から、新型コロナウイルスワクチンの接種が日本でも始まる際に、「定温輸送容器セット」が活用できそうだと厚生労働省から引き合いがありました。そこで、「定温輸送容器セット」そのままではなく、それをベースとした「新型コロナウイルスワクチン保冷バッグ(以下、コロナワクチン保冷バッグ)」を急遽商品化することにしました。

  

― 「コロナワクチン保冷バッグ」を新たに開発したんですか!?それについても教えてください。

 


  
新型コロナウイルスのワクチン輸送には、その用途に特化した専用保冷バッグが全国で使用されています。次回はその「コロナワクチン保冷バッグ」を紹介するとともに、5月24日に発表した「-22℃適温蓄冷材」についても触れる予定です。お楽しみに。

次回ブログはこちら

(広報担当:H)

<関連サイト>

■株式会社スギヤマゲン:公式サイトシャープ株式会社様と「医薬品向け定温輸送容器セット」を開発しました  (TOPICS) 
■ニュースリリース:「3℃適温蓄冷材」を活用した医薬品向け「定温輸送容器セット」を開発 
■「TEKION LAB」: 「TEKION 適温 テクノロジー」「TEKION LAB」公式サイト
     チャレンジサイトNo.16:社内ベンチャー「TEKION LAB」のチャレンジ
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