画面に触れずに操作できるので安心!
ニューノーマル時代に対応した非接触型の「静電ホバータッチディスプレイ」を開発
2021年10月18日
銀行のATMや駅の券売機はタッチ式の画面が当たり前になり、商業施設やパブリックスペースの案内板にも、画面に直接さわって操作するタッチディスプレイタイプが増えてきました。しかし、新型ウイルス感染症の流行もあり、できれば触れずに操作したいですよね。
当社は、そうした“非接触”ニーズに対応し、ディスプレイに触れることなく、指を浮かせた状態で操作可能な「静電容量ホバータッチディスプレイ」を開発しました。10月19日から22日まで開催される「CEATEC 2021 ONLINE」に出展します。
*「CEATEC 2021 ONLINE」公式サイトはこちら、シャープ特設サイトはこちら
今回は、「静電ホバータッチディスプレイ」の企画・開発担当者に、製品特長や非接触操作実現への取り組みなどを聞きました。
左より デジタルイメージングソリューション事業部
第二技術部 係長 松井 邦晃、 同 部長 野上 康久、 商品企画部 課長 仁田 均
― 「静電ホバータッチディスプレイ」の特長を紹介ください。
(仁田)特長の一つ目はもちろん、ディスプレイに直接触れずに操作できることです。画面から最大約5㎝離れた位置にある指を高精度で検知します。冬の屋外、手袋※1をしたままでも、しっかりと検知できるんです。何より、5㎝離れても検知できる技術は凄いことなんですよ。
縦置きや斜め置き※2など、多彩な設置シーンに対応しているのが二つ目の特長です。店舗などの案内用デジタルサイネージとして使用される場合、横より縦や斜めにしたほうがいい場合もあります。当社は設置シーンにもこだわって開発しており、そうした要望にも柔軟に対応可能です。
ショッピングモールの案内用デジタルサイネージ(斜め置き) イメージ
三つめは、操作を視覚的に伝えるUI(ユーザーインターフェース)と効果音を採用していることです。非接触だと、本当に操作できているのか不安に感じる方もいると思います。画面上に操作ガイドを表示するほか、指を検知したときに効果音を鳴らすことで、直感的に操作できるよう工夫しました。
市場に出てきている非接触ディスプレイは中型サイズが主流ですが、当社は15インチ程度の中型から55インチ程度の大型まで幅広く展開することを検討しており、それが可能なのもサイズや用途にあわせて多彩なディスプレイを手掛けている当社だからこそです。
※1 手袋の素材や厚さにより、検知できない場合があります。
※2 上向き0~20°、45°の斜め置きに対応しています。
― 多彩な設置シーンが特長とのことですが、具体的にどのような用途を想定していますか?
(仁田)まずは、非接触大型ディスプレイがあまり普及していない商業施設におけるサイネージ用途を検討しています。さらに、パブリックスペースでの案内板や飲食店のセルフオーダー端末、オフィス・銀行・病院の受付端末などのほか、油などで手が汚れるので触らずに操作したいとお考えの整備工場、高い水準の衛生管理が求められる食品関連の工場などにも応用できると考えています。
設置イメージ(いずれも縦置き)<左:店舗の案内用デジタルサイネージ 右:飲食店のセルフオーダー端末>
― なぜ非接触ディスプレイを開発しようと思ったのですか?
(仁田)学校やオフィス向けのタッチディスプレイは限られた人しか使いませんが、商業施設や展示施設に設置してあるディスプレイは不特定多数が触るので、抵抗を感じる方が多いのではと考え、検討を始めました。昨今の新型ウイルス感染症の拡大もあり、“非接触”こそがいまディスプレイに求められている特長だと確信しました。
(野上)仁田さんが話したように、新型ウイルスが流行する前から、非接触の技術を追求していました。私たちは、大型タッチディスプレイの先駆けともいえる電子黒板BIG PADを手掛けており、その経験・ノウハウが非接触ディスプレイでも活かせるはずだと考えました。いくつかの方式で試作・検証を繰り返し、最終的に静電ホバータッチディスプレイにたどり着きました。
左より 松井さん、仁田さん、野上さん
― 「静電ホバータッチディスプレイ」と聞くと少し難解な感じがするのですが、どんな原理で検知するのですか?
(仁田)まず、”ホバー(hover)”という意味が分かりづらいかもしれませんが、英語で「空中に停止する」という意味で、ホバータッチディスプレイとはディスプレイに触れずに、指を浮かせた状態で操作が可能なディスプレイのことを言います。
実用化している非接触ディスプレイには、①IR方式(画面外枠から赤外線やレーザー光を指などに当てて、その反射光の位置などから計測するタイプ)、②カメラ方式(カメラでジェスチャーやモーションを読み取り画像認識するもの)、③静電容量方式(指を画面に近づけると、その部分の電界量が変化することを利用した方式)などがあります。当社は③の静電容量方式、そのなかの投影型・相互容量型です。
(松井)簡単に説明すると、ディスプレイ内に送信側電極(ドライブ電極)と受信側電極(センス電極)を設置して電界を発生させます。指が近づくと電界の一部が指先側に移り、電極間で検知する電界量が減少(=静電容量も減少)します。この容量減少によって位置を検出します。この電界は画面から人の方に向かって半円状に出るため、触らずに検知できるのです。
静電容量方式には、投影型の他に表面型もあります。当社製品が採用する投影型は多点検出が可能で、複数の指で同時に操作するマルチタッチに対応できるのに対し、表面型は1点のみしか検出できません。また、投影型には自己容量型という方式もあります。相互容量型は、高感度で反応速度も速いのに対して、自己容量型は大型化すると配線が増えるなどのデメリットがあります。そうした点から、当社は投影型・相互容量型 の静電容量方式を採用しました。
― 開発するうえで一番難しかったことは?
(野上)検出距離を延ばすことです。開発の末、非接触での操作に目途がつきつつあったのですが、それでも当初は画面から2㎝を超えると反応が良くありませんでした。2cmだと誤ってガラス(画面)に触れてしまう場合もあり、それではタッチレスと言えません。そこから、検出距離を延ばすことを優先して開発を進め、約1年を掛けてなんとか検出距離5㎝を実現できました。
― 検出距離5㎝の実現にどんな取り組みを行ったのですか?
(松井)検出距離を拡げるには、ガラス面からより遠くまで電気力線(電界)を延ばす必要があります。上述の原理のところでも説明しましたが、電界は電極から半円状に出るため、電極間の距離が遠くなると、結果的にガラス表面から遠いところまで延びます。それを実現するため、電極の駆動方法を工夫することで疑似的に画面から遠いところまで検知できるようにしました。
また、遠いところの検出値(静電容量減少の値)は非常に小さいため、その変化は捉えにくく、さらに外部ノイズの影響を受けやすくなります。そこで、システム全体の改善で、ノイズを小さくすることと、信号レベルを適切に受けられるようにすることの両方を実現しました。これにより、容量値変化が各段に捉えやすくなりました。ただし、微小な信号を検知する動作はノイズにも弱くなるため、高温・低温環境下でのエージング試験やノイズ印加試験など、何度も試験・検証を行いました。ここでの対応・調整が本当に手間取りましたし、時間もかかりました。
こうした対策は、信号処理を行うタッチパネルコントローラーによるところが大きく、そのデバイスをグループ会社のシャープ福山セミコンダクター株式会社と緊密に連携しながら開発できたことも、実現できた要因だと思います。
― 検出距離のほかにも、優れているところはありますか?
(松井)ホバータッチとしてだけでなく、タッチディスプレイとしても使えます。タッチすると自動的にタッチディスプレイに切り替わり操作できますので、さらに利用シーンが拡がります。
(仁田)操作性だけではなく、ディスプレイの表示装置を囲む額縁(ベゼル)を10mmまで小さくするなど、デザイン性にもこだわっています。
― 今後の展開・夢などがあれば、ご紹介ください。
(野上)2022年春の商品化を目指し、さらにさまざまなシーンで使っていただけるように開発を進めていきます。将来的には、SF映画にあるように、何もない空間で指やジェスチャーにより操作できる製品・ソリューションを開発・実現できればと思っています。
― ありがとうございました。
スマホの普及もあり、タッチディスプレイは一般的なものになりましたが、触れずに操作できるディスプレイがあることに驚きました。私も外出先ではむやみにモノに触れないよう、気を付けて生活しています。「静電ホバータッチディスプレイ」は、ニューノーマル時代にうってつけの、安心感の高い製品です。来年の商品化後には、さまざまなシーンで活躍することを期待しています。
●今回の取材内容がグラレコになりました。特設サイトにてご覧ください!(以下の画像をクリックしてください)
(広報担当:H)
<関連サイト>
■製品サイト:PN-HW4HT
■ニュースリリース:ディスプレイに直接触れずに操作が可能な「静電ホバータッチディスプレイ」を開発
■「CEATEC 2021 ONLINE」: https://www.ceatec.com/
■「CEATEC 2021 ONLINE」シャープ特設サイト:https://corporate.jp.sharp/eplaza/
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