8Kドローンだから安全かつ効率的!「ドローン検査ソリューション」②-橋梁のインフラ点検もお任せください-
前回の記事では、8Kカメラ搭載ドローン(以下、8Kドローン)が災害時の状況把握にどのように活躍するのかご紹介しました。今回は、橋梁のインフラ点検での事例を説明するとともに、大容量のデータである8K映像の伝送について、引き続き、研究開発事業本部 8K Lab 部長補佐の吉田に話を聞きます。
― 橋梁のインフラ点検に8Kドローンはどのように使われるのでしょうか。
<橋梁のインフラ点検>
前回、ご紹介したように、当社のドローンソリューションを用いたローカル5Gや8K映像伝送の検証※1が、自治体での業務DX(トランスフォーメーション)支援の研究事例として、総務省の事業(総務省令和2年度「ローカル5G等及び8K映像伝送による自治体各種業務支援に関する調査研究」)に採択されました。今回は、奈良県北葛城郡王寺町の達磨橋で行った橋梁のインフラ点検での実地検証をもとに、ドローンで点検作業を行うメリットを紹介します。
- ※1 当社が調査研究会を開催し、奈良県の自治体、西日本電信電話株式会社(NTT西日本)、株式会社ミラテクドローン、および公益社団法人奈良県測量設計業協会が参加。ローカル5Gおよび8K映像の活用により、災害対応、インフラ保守点検等、自治体が行う各種業務の効率化・高度化を図るべく、各種実証実験を実施・検討したものです。(https://corporate.jp.sharp/8k5g/8klab/l5g_report_2020.html)
公共の重要インフラである橋梁は、定期的に損傷度合いを点検する必要があります。一般的に、橋の側面や裏側(下面)には、橋脚点検車など大掛かりな設備を利用することが多く、目視やカメラなどにより人の手で点検されています。
達磨橋の損傷場所を探すスクリーニングと呼ばれる作業の場合、橋脚点検車を利用した点検には4時間程度かかる試算でしたが、ドローンでは約20分で作業が完了し、約12倍の作業効率が見込めることが分かりました。これは、あくまでも想定にもとづく数値であり、また、ドローンでは実際に橋を叩いて損傷しているかどうかを確認する打音検査はできませんので、完全に作業を置き換えられるわけではありません。しかし、ドローンで損傷の可能性がある部分を確認した上で、必要に応じて、橋梁点検車などで、その部分に絞って打音検査などで確認するという作業手順にすれば、現状より大幅に作業時間が短縮されるでしょう。
ただ、橋梁検査でのドローン使用には、別の課題もあります。操縦には、カーナビのように、人工衛星(GPS)からの情報を利用したオートパイロット機能(あらかじめ検査する軌道をプログラムした自動操縦)を使っています。しかし、橋梁裏側だと、人工衛星からの位置情報が届かずGPSロスが発生し、手動で操作しなければならない状況が起こりえます。さらに、橋脚の間に生じる気流により、ドローンが壁に吸い付く現象が起こり、最悪の場合、橋に衝突してしまう可能性もあります。そのため、操縦には細心の注意が必要になってきます。
そこで、8Kドローンを使用するメリットが出てくるんです。4Kよりも8Kの方が、解像度が高い分だけ距離をとって観測できますので、安全面でも優位ですし、橋脚に衝突する危険性も低下します。4Kドローンでも大幅な効率アップになりますが、8Kドローンの方がさらにメリットが大きくなるんです。
さらに、当社では、可視画像※2と赤外線画像※2を重ね合わせて表示する独自の画像解析技術を用いることで、捕修が必要な個所を発見しやすくしています。
- ※2 ドローンで橋梁点検を行う場合は、赤外線カメラと高解像度の可視カメラの2つを装備したドローンで同時に撮影します。赤外線撮影で、目視で確認できないひび割れや破損状況をいち早く発見し、低解像度の赤外線撮影で分かりづらい部分は、高解像度の可視撮影画像で詳細を確認します。
― 続いて、データ伝送について聞きたいのですが、8Kの大容量通信は問題なく実施できるのでしょうか?
8K映像をリアルタイムで安定的に伝送するには、映像圧縮技術が不可欠で、HEVC※3等の現在利用可能な映像圧縮技術では100Mbps程度の伝送速度の確保が理想です。5Gやローカル5G※4であればこのような大容量通信も可能ですし、我々はこれまでに8Kリアルタイム伝送の技術実証も行っているため、問題ありません。しかしながら、現在、サービス提供されているキャリア5Gの実効値では100Mbpsより低い通信環境になることが多く、安定して伝送できるのは40~60Mbps程度です。従って、キャリア5Gによる8Kリアルタイム伝送は、現時点ではまだ実用的とは言えず、データ圧縮率をさらに高めて伝送する技術の進化が不可欠なんです。
- ※3 HEVC(High Efficiency Video Coding)は動画圧縮規格の1つで、4K Ultra HDブルーレイ・8K放送で利用されている。「H.265」とも呼ばれる。
- ※4 企業や自治体が、自らの建物内や敷地内といった特定のエリアで構築、利用できる独自の5G通信システム。
― 災害状況などは8K映像をリアルタイムで見たいと思うのですが・・・
確かにその通りです。災害時は緊急を要する案件が多いですし、それをリアルタイムに8K映像で伝送できれば、より詳細に知ることができるので、非常に有効です。ただ、携帯の電波をドローンで使用する場合、1週間程度の簡素な手続きで利用できる制度が設けられていますが、5Gやローカル5Gの周波数については、この制度の適用対象外です。さらに、ローカル5Gについては現在のところエリア内運用が基本であり、災害時のような広域での運用は想定されていません。このように、インフラはまだ十分ではありませんが、総務省では5Gやローカル5Gの通信環境下でのドローンを用いた各種実証実験なども現在実施しており、早期の制度の整備に期待しているところです。
先ほど、8Kのリアルタイム伝送には、更なるデータ圧縮技術が必要と話しましたが、実は、私が所属する部署では画像解析技術の開発も行っています。8K映像データを従来規格比※5で約1/2に圧縮する、世界初※6の「8K対応リアルタイムVVCデコーダー」を2020年12月に開発するなど、我々の方も8Kリアルタイム伝送に必要な技術開発を進めています。
さらに、VVC圧縮技術を活用し、8K映像から4K相当にダウンコンバートして送信したデータを、受信側で、8K元映像の統計情報をもとに、AIを駆使し8K同等の画質品位に生成しなおす8K超解像技術の研究開発にも取り組んでいます。これら最先端の圧縮技術の実用化が進むことにより、8K映像を様々な条件下でリアルアイムにお届けできるようになります。
- ※5 HEVCとの比較において。映像により圧縮率は変動します。
- ※6 8K映像のリアルタイム処理に対応したVVCデコーダーとして。(2020年12月4日時点、当社調べ)
― 通信環境や圧縮技術が整備されれば、さらに実用的なソリューションになりますね。では最後に、吉田さんの8Kドローンにかける思いを。
今の目標は8Kリアルタイム映像を駆使したドローンソリューションの実現です。これは圧縮技術にかかっていますので、まずはそこを極めていきます。同時に、ノウハウや知見のあるドローン業者と連携することで、本ソリューションを強化・充実させていきます。8Kドローンで社会実装(社会貢献)を実現できれば、技術者冥利につきます。
― ありがとうございました。
8Kは、高解像度・高精細という情報量の多さによるメリットばかりに目が向きますが、ドローンと組み合わせることで、安全にも貢献することが分かったのは新たな発見でした。当事業はスタートしたばかりですが、映像圧縮技術がさらに発展すれば、思いもよらないシーンで活躍できるのではないでしょうか。早期の実現を期待しています。
「ドローン検査ソリューション」紹介動画(上記画像をクリック)
(広報H)
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■ニュースリリース:
災害時の広域監視利用を想定した5Gによる8K高精細映像のリアルタイム伝送に成功
SA(Stand Alone)方式の5Gにより、高速走行中の新幹線試験電車「ALFA-X」と地上間における双方向の8K映像伝送に成功
5Gで軽種馬を育成支援、8Kライブ映像を活用した実証試験を実施
世界初「8K対応リアルタイムVVCデコーダー」を開発
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