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建設現場での配筋検査時間を約75%軽減※1 ! 清水建設と共同開発した「リアルタイム自動配筋検査システム」とは?

「リアルタイム自動配筋検査システム」(開発機)

配筋検査とはどんなものかご存知ですか? 橋やトンネルなどコンクリートの構造物を作る際に、鉄筋が正しく配置されているか確認する品質管理業務のひとつです。強度や耐久性に直接関連する重要なプロセスですが、従来の方法では、検査用具の準備から、鉄筋へのマーカーや検尺ロッドの設置、計測、小黒板への記録・撮影、そして帳票作成に至るまで、実に多くの作業が必要でした。また、段階確認2は、施工者3名、発注者監督員1名で行うのが標準的で、多くの時間と労力がかかりました。

しかし、当社が清水建設株式会社(以下、清水建設)と共同開発した「リアルタイム自動配筋検査システム」は、3つのカメラと、当社が推進する「8Kエコシステム」関連技術を発展させた独自の画像解析アルゴリズムにより、わずか7秒程度※3で検査結果を表示するなど、プロセスの大幅な省力化を実現。検査に必要な時間を約75%軽減可能です。
今回は、この「リアルタイム自動配筋検査システム」について、研究開発事業本部の有田真一に聞きました。

研究開発事業本部 主任研究員の有田真一
  • ※1 東北中央自動車道 東根川橋(福島県)の工事での検証数値にもとづく。

  • ※2 検査には、現場施工者主体で行う自主検査と、発注者監督員立合いで実施する段階確認があり、どちらの検査でも大幅な効率化が可能となります。

  • ※3 検査対象範囲により、必要な時間は変動します。

 

― なぜ清水建設と共同開発することになったのですか?

私が所属する部門では、カメラ計測技術の開発・事業化を進めています。当社と清水建設は、定期的に技術交流会を開催しており、4年程前、当社が持つカメラ画像計測技術を紹介したところ、清水建設より、この技術を配筋検査に使えないか?と相談を受けたのがきっかけです。

人手不足や作業者の高齢化により、建設業界では生産性の向上が喫緊の課題であり、手間と時間のかかる配筋検査をDX(デジタルトランスフォーメーション)で効率化するため、共同開発することになりました。当社がシステム開発・製作を行い、清水建設が仕様の検討、現場での評価を行っています。

 

― 「リアルタイム自動配筋検査システム」はどんな原理で計測するのですか?

まず、ベースとなるカメラ画像計測技術について説明します。横に並べた左右2つのカメラで同じ対象物を同時に撮影すると、カメラ位置の違いから対象物が少しずれた状態で2枚の画像が撮影されます。この2枚の画像のずれ(視差情報)をもとに高精度の3次元位置情報を算出することで、撮影された画像内の任意の点と点、点と線、点と面の距離や角度が計測できます。例えば、案内標識の高さを直接メジャーで測らなくても、撮影するだけで非接触計測が可能です。また、後からこの案内標識の幅の計測が必要になったとしても、再度現場に行く必要はなく、すでに撮影したデータを使って計測できます。画像に写っているものであれば、多点計測広範囲計測もOKです。計測(撮影)すると、その場所が撮影されていますので、どの場所か視覚的に分かりやすいのもメリットです。

「リアルタイム自動配筋検査システム」は、この技術を応用したものです。当初は2眼カメラで開発をスタートしましたが、日射状態や配筋の仕様などさまざまな現場環境に適応しつつ、縦・横に配置されている鉄筋の3次元位置を精度よく検出するため、3眼に変更しました。L字に配置した3眼カメラにより、対象範囲の鉄筋の配列状態を撮影し、同時に、撮影画像のずれ(視差情報)をもとに縦・横・奥行きの3次元情報を取得します。その3次元画像データから、当社独自の画像解析アルゴリズムで、画像内の鉄筋の径や間隔、本数を高精度に計測します。

 

― 「リアルタイム自動配筋検査システム」の特長を教えてください。

これまでの配筋検査は、多くの準備と、複数名の作業員による計測が必要で、構造物が大きくなるほど検査対象は増え、作業員の負荷も増大していました。

「リアルタイム自動配筋検査システム」なら、鉄筋にカメラを向けて「撮影」ボタンを押し、その画像の中から範囲を指定して「計測」ボタンを押すだけのシンプルな操作で自動的に計測。わずか7秒程度で高精度な検査結果を表示し、帳票作成まで行います。これにより、事務所に戻って報告書(帳票)を作成する手間も不要となり、また、マーカーや検尺ロッドなどの持ち運びも必要なく、施工者は1人で済みます。このように配筋検査のプロセスを大幅に省力化し、所用時間を約75%軽減するなど、大幅に生産性が向上します。

シンプルな操作で自動計測 <配筋検査中の画面表示(イメージ)>

また、タブレットPCを搭載しているので、通信回線を介し、遠隔地にデータを送ることも可能です。そのため、段階確認では監督員は現場に行くことなく、遠隔臨場※4が可能です。

さらには、安全性の向上にも貢献します。高所での配筋検査では、組んだ足場から離れた鉄筋を検査する場合、足場から鉄筋まで仮板を設置するなどして、近づいて検査する必要がありますが、「リアルタイム自動配筋検査システム」なら、安全な場所から撮影することが可能です。検査用具が落下するリスクもなくなります。

  • ※4 従来、現場で立ち会って実施していた建設現場での確認作業を、カメラなどを利用して遠隔で行うこと。

 

「リアルタイム自動配筋検査システム」を動画で紹介(上記画像をクリック)
*音が出ますのでご注意ください。
<清水建設「清水建設の技術テクノアイ」サイトより転載>

 

― どんなところにこだわって開発したのですか?

現場での使い勝手にこだわりました。「配筋検査」という言葉も知らない状態からのスタートでしたが、どんな仕様が必要なのか、どういう風に使われるのかを知るために、何度も建設現場に足を運びました。建設会社の事務作業をしている方より、現場へ行った回数は多いかもしれません(笑)。その結果、シンプルな操作に加えて、質量3kg※5、肩幅以下の幅30cm※5など、現場作業で支障にならない軽さ・サイズに抑えることができました。防水機能やLED照明もつけていますので、雨天時や暗所でも十分に使用可能です。

日射や天候条件、配筋仕様の異なる20現場で、40 回以上の現場検証を実施
  • ※5 試作品の数値です。量産モデルでは変更の可能性があります。

 

― 既に現場でも使用されているのでしょうか?


国土交通省が、建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト(=PRISM)を進めており、そのPRISMを通じて、東北中央自動車道 東根川橋(福島県)の工事※6で、本システムが採用されました。国土交通省の発注工事において、デジタル化された配筋検査システムが採用された初めての事例です。続いて、国道45号線 新思惟大橋 上部工工事※7でも採用され、両件とも国土交通省より、A 評価(十分な成果があり、技術の導入や社会実装の実現性について高い評価)をいただきました。

なお、システムの効率性に加え、お話ししたような実証事例もあることから、内閣府主催の「第4回 日本オープンイノベーション大賞」で『国土交通大臣賞』を受賞するなど多数の評価をいただいています。

第4回 日本オープンイノベーション大賞『国土交通大臣賞』の楯を受け取る有田さん(左)
  • ※6 建設地:福島県伊達市保原町富沢地内、発注者:国土交通省 東北地方整備局、施工者:清水建設、工期:2018年12月18日~2020年12月25日

  • ※7 建設地:岩手県下閉伊郡田野畑村菅窪地内、発注者:国土交通省 東北地方整備局、施工者:清水建設、工期:2019年3月31日~2021年2月5日

 

― 今後の展望を教えてください。

国土交通省の一部の発注工事の配筋検査に採用されたといっても、あくまでも試験的な段階であり、段階検査ではまだ、全ての建設現場でこういった形態での配筋検査は認められていません。しかし、国土交通省もインフラ分野のDXを推進しており、デジタル化したシステムの現場での運用を可能とすべく制度変更を進めています。こうした中、本システムが一般的な検査業務のプロセスの主流になればと、清水建設とともに事業化を進めているところです。
具体的には、清水建設・株式会社カナモト※8と共同で、2022年度上期内の事業開始をめざして本システムの製品開発を進めています。

今日ご紹介したように多くのメリットがある「リアルタイム自動配筋検査システム」が、建設現場のどなたにも使っていただける未来が一日も早く実現することを期待しています。

  • ※8 建設機械器具やエンジニアリングワークステーションおよび周辺機器のレンタル、鉄鋼製品の販売などを手掛ける(北海道札幌市、代表取締役社長:金本哲男)。

 

― ありがとうございました。


「リアルタイム自動配筋検査システム」により、建設現場でのデジタル化が進めば、高齢化が進む現場の負担軽減につながりますし、今後の人口減少に伴う人手不足にも有効です。当社の技術が建設現場のDX推進により早く、より大きく貢献できることを期待しています。

(広報H)

           

<関連サイト>

■ニュースリリース:
 「リアルタイム自動配筋検査システム」が第4回 日本オープンイノベーション大賞『国土交通大臣賞』を受賞
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