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シャープに入居して良かった!④パイクリスタル株式会社さま
—シャープ柏事業所への入居企業をご紹介します—

パイクリスタル株式会社 量産技術部 部長 近藤 弘康 さま

前回、千葉県柏市にあるシャープ研究開発事業本部のR&D拠点 柏事業所(以下、シャープ柏)に入居した感想を、バイオ医薬品関連を事業領域とするジーンフロンティア株式会社からお聞きしました。今回は、大手化学メーカー株式会社ダイセルのグループ企業で、有機半導体技術でのビジネスを進めるパイクリスタル株式会社(以下、パイクリスタル)の近藤さまからお話をうかがいます。

前回の内容はこちら

― パイクリスタルさまはどんな会社ですか?事業内容などを教えてください。

本社をシャープ柏に置き、他にも東京大学と大阪大学の構内にそれぞれ分室を持っています。総勢41名の従業員のうち、本社(シャープ柏)では30名以上が働いており、研究開発と量産実証を担当しています。東大分室では研究開発を、阪大分室では商品設計をおこなっています。

パイクリスタル社従業員のみなさま  *写真撮影時のみマスクを外しています。

事業内容を一言で言うと、当社のCTOで東京大学教授の竹谷 純一※1 が開発した高性能有機半導体技術をベースに、軽く薄く低コストな有機フィルムセンサデバイスを開発・提供することで、効率的で快適なスマート社会実現に貢献する企業です。

  • ※1 東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻教授


― 有機半導体(デバイス)とはどういう特徴を持っているのですか?

半導体には、さまざまな製品で使用されているシリコン(ケイ素)を代表とする無機半導体と、炭素を含む化合物による有機半導体があります。

半導体としての性質は、安定していて導電性の高い(移動度の高い)無機半導体の方が優れており、有機半導体は、シリコンに比べると移動度は劣ります。一方、無機半導体は、材料として硬い上に、重く、実際に利用できる形にはいくつかの制限があります。

有機半導体は、軽量で薄いことに加え、“柔らかい”という材料としての特徴を生かすことで、紙のようにしなやかで柔らかく軽いデバイスや、SF作品に出てくるペラペラで巻き取りもできるディスプレイや、腕に装着してヘルスチェックが可能なウェアラブルデバイスなど、画期的なデバイスを実現できる可能性があるんです。

また、有機半導体は任意の有機溶剤に溶かすことができるので、インクのように扱えます。つまり、印刷による半導体成膜が可能になります。無機半導体の真空プロセスのような大規模で高額な装置を導入する必要はなく、コンパクトな装置で安価に製造することができます。

― 御社ならではの強みと、どのような製品を実用化しようとされているのか教えてください。

シリコンに比べて移動度は低いと言いましたが、竹谷教授のグループが開発した有機半導体結晶を材料とする当社の有機半導体は、一般的な有機半導体より10倍の性能(移動度)を持っています

パイクリスタルさま独自開発の成膜技術によって作成されたフレキシブル有機半導体

加えて、半導体を単結晶として印刷する当社独自の有機半導体塗布技術(連続エッジキャスト法)により、印刷で作る半導体としては世界最高レベルの大きさ、性能を提供できます。この方法で成膜した半導体層は極めて薄く、柔軟であり、さまざまなフレキシブルデバイスへの応用が可能です。

その強みを生かし、当社はフィルム状でフレキシブルかつ薄型の有機フィルムセンサデバイス(集積回路、センサー)の商品化を進めています。例えば「歪みセンサ」などが考えられます。当社の有機半導体を用いれば、これまで金属製センサでは感知できなかったような小さい歪みまで感知することが可能です。ほかにも、「大型デジタルサイネージ/ディスプレイ用の薄い半導体チップ」を、2023年1月にはシャープ柏に導入した設備で技術確立する予定です。「回転機器の異常振動を検知する設備管理センサデバイス」、「物流中の状態を管理する物流センサデバイス」なども検討しています。いずれもまだ実用化はできていませんが、早期の商品化に向けて開発、実証試験を進めているところです。

有機半導体を用いた製品事例(開発中)
ごく薄いフィルム上に作成したフレキシブル有機半導体(サンプル)を手に持ち説明する近藤さま

― ここからは、シャープ柏への入居についてお聞きします。なぜ、入居をお考えになったのですか?

東京大学(柏キャンパス)の竹谷教授が開発した半導体材料が当社のビジネスのスタートですので、東京大学と連携している東大柏ベンチャープラザ※2に拠点を置いていました。当社が有機半導体の事業拡大に向けて、その量産実証設備が導入できる移設先を探していたところ、同施設の所長にシャープ柏を紹介されたんです。柏キャンパスと密に連携する必要があるので、近接した地域、そして、柏キャンパスに置いていた装置、技術、人の移転がスムーズにできるところ、何よりクリーンルームが使える場所を求めていましたので、シャープ柏は当社にドンピシャの提案でした。

  • ※2 独立行政法人中小企業基盤整備機構が、東京大学および地域(千葉県、柏市)と連携して運営する、新事業の創出や起業に取り組む企業などのための事業化支援施設(インキュベータ)。

― 入居されての感想をお聞かせください。

クリーンルーム2室とオフィスの合計3部屋借りています。クリーンルームを使えるのがメリットですし、オフィスとクリーンルームが同一建物内にあるのは便利ですね。インフラ(電気、水、排水管)も揃っています。電気の増設も相談に乗ってもらいました。

入居の際には、30台ぐらいの量産設備を持ってきたのですが、設営業者向けの詰め所を従業員入口の近くに作ってもらうなど柔軟に対応いただきました。従業員用としてだけでなく、装置を導入する際の装置メーカー用にも駐車場が使えるのも便利です。会議室もフルに活用させてもらっていますし、トイレの増設にも対応いただきました。ネット環境も申し分ありません。

パイクリスタルさま使用のクリーンルーム(シャープ柏内)
クリーンルームでの作業の様子(シャープ柏内)

― 入居後の事業は順調ですか?

東大柏ベンチャープラザにいた時に比べ、ここ(シャープ柏)での実証実験はレベルアップしています。実用化のための基盤ができたと考えています。

― 今後こうして欲しいというところはありますか?ご要望があればお聞かせください。

会議室は共用にもかかわらず、当社が使用することが多く申し訳なく思っています。入居された他の企業も使用されるので、可能であれば会議室の数を増やしていただければと思います。あと、排水・廃液などはシャープ柏のインフラでもあるので、管理がシャープさん任せになっています。ご迷惑をおかけしている部分もありますし、一部分でも私たちが共同管理できるようになれば、シャープさんへの負担を減らせるのではないかと思っています。

― 貴重なご意見ありがとうございます。最後に、御社の今後の展開を教えてください。

開発は進めていますが、製品としてはまだ陽の目を見ていません。まずは、なるべく早く、有機半導体を用いた製品を実用化したいと考えています。その後、事業化が進めば、製造ラインなどの拠点を他の場所に新設する可能性はありますが、ここは研究開発の拠点として変わらず使用したいと思っていますので、これからもよろしくお願いします。

オフィスの様子

― ありがとうございました。


有機半導体の可能性の大きさを感じることができました。シャープ柏で開発された有機半導体デバイスが早く商品化されないか、楽しみになりました。パイクリスタルさまの事業は、当社のビジネスに関連する部分も多そうですので、将来的に両者の事業連携も期待したいと思います。

●2回にわたって、シャープ柏に入居した2社をピックアップして紹介しました。現在、シャープ柏には合計7社100名以上の方が入居されています。現在も入居を募集中ですので、首都圏で場所をお探しの化学系ベンチャー企業の方、ぜひシャープ柏をご検討ください。

<お問い合わせ先>
シャープ株式会社 研究開発事業本部 インキュベーションセンター第2開発室(管理Gr.)
メール:info_kashiwa@list.sharp.co.jp / 電話:04-7135-6280


パイクリスタル株式会社
・所在地:千葉県柏市柏273番地1 シャープ株式会社柏事業所内36室(電話番号04-7136-2036)
・事業内容:有機半導体単結晶の成膜技術を核として、フレキシブル、薄型、軽量の有機フィルムセンサデバイスの開発・製造・販売

(広報H)           

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