GaN※1パワーデバイスを使用したサーバー用電源で世界最高の電力変換効率96.5%※2を実現! ー 低炭素社会の実現へ貢献 ー
2022年7月28日
スマホって便利ですよね。もはや1人1台が当たり前で、インターネットを使用する機会・頻度が飛躍的に増加しています。便利な一方、やり取りされるデータ量の増大にともなって、インターネット用のサーバーを設置しているデータセンターの消費電力が増え続けています。
そうした中、当社は、データセンターの消費電力削減に貢献するため、エネルギー・地球環境問題の解決を目指す国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO※3)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」に参画し、サーバーの電力損失を最小化する高効率サーバー用電源を開発しました。体積600cc未満(4cm x 7.35cm x 20.4cm)の体積最小クラスで世界最高の電力変換効率96.5%※2 を実現しています。
今回は、開発を主導した研究開発事業本部の担当者に話を聞きます。
- ※1 GaN(=ガリウムナイトライド/窒化ガリウム):従来のSi(シリコン/ケイ素)よりも電気的、物理的特性に優れ、変換効率が高い次世代半導体として注目されている材料。
- ※2 シャープ調べ(2021年11月15日時点)
- ※3 産官学の連携及び、国際ネットワークの活用で、エネルギー・地球環境問題の解決と産業技術の競争力強化を目指す独立行政法人。
― 開発のきっかけは?
NEDOでは、経済成長と両立する持続可能な省エネルギーの実現のため、民間企業などから省エネルギーに寄与する技術開発テーマを公募し、開発費の一部を助成する「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」を2012年度から実施しています。一方、私が所属する開発グループは、高効率半導体の主流になる可能性を秘めている、次世代半導体GaN(ガリウムナイトライド)を使用した製品を実用化するため、2017年頃より開発を進めていました。GaNを活用した回路技術は、消費電力の大幅な削減が期待できる技術で、NEDOが公募する内容に合致していたことから応募したところ、採択され、2018年よりGaNを用いた高効率サーバー用電源の開発をスタートしました。
― なぜ、サーバー用電源を開発しようとしたのですか?
現在、スマホやパソコンなどの情報機器はもちろんのこと、ゲーム機や家電などさまざまなものがインターネットに接続され、通信・データの量が急増しています。そのため、サーバーが設置されるデータセンターの消費電力も増大していることに加え、IoTや5G通信の普及拡大も相まって、世界のデータセンターの消費電力量は2020年の約1.4兆kWhから 2030年には1.7倍の約2.4兆kWhへと増加※4。世界の消費電力量の8%※5に達し、CO2 換算では10億tになると予想されています。この消費電力をどう抑えていくかが世界的な課題になっています。GaNを用いたサーバー用電源なら、この課題に対し、有効な解決手段になり得ると考え、開発に取り組むことにしました。
- ※4 出典:「IEA, Energy Balances of OECD Countries, Energy Statistics and Balances of non-OECD Countries」
- ※5 出典:「武者リサーチ 投資ストラテジーの焦点(303号)2018年を読む ~マクロとミクロ・技術邂逅の年」
― データセンターのサーバー、中でもその電源部分に着目した理由は何ですか?
データセンターの消費電力の内訳(上記画像の右側円グラフ参照)を見ると、消費電力が高い方からサーバー35%、次にサーバー冷却機33%の順です。すなわち、消費電力を削減(=損失低減による効率アップ)するのに最も効果的なのはサーバーです。この部分の消費電力を下げると、サーバーの発熱も低減されるので、冷却機の消費電力の減少につながるという副次的効果もあります。
また、サーバーでは、コンセント(系統)からの電気が、電源を通じて、CPU、メモリ、その他部品へと分散し、消費されます。電気の流れから言うと、末端に当たるCPUやメモリなどを1つずつ効率化するより、大元の電源(ユニット)の効率化に取り組んだ方が損失削減の近道になります。加えて、サーバーの電力変換損失は電源に集中しています。私たちは、次世代半導体GaNの事業化のために発足した開発部隊で、電源の電力変換部分で使用される半導体に必須のスイッチング技術に強みを持っています。そうしたことから、次世代半導体GaNの活路を、スイッチング技術を用いたサーバー用電源の効率化に見出し、開発を進めることにしました。
― 設定した目標を教えてください。
電源は、変換効率が高いほど、サーバーに必要な電圧を低損失で作ることができ、逆に効率が低ければ、廃棄熱として放出されるエネルギー損失の割合が増えます。開発前(2018年4月)は、高出力2kWタイプの体積最小クラスでは、開発品であっても、変換効率96%を超えるものはありませんでした。特に、体積最小クラスでの高効率化は非常に難しいんです。
一方、市場では、省スペースで設置が楽、といったメリットを求め、サーバーの小型化が進んでいます。そのため、ハードルは高いものの、将来性の高い小型サーバー向けに高効率電源を開発すべきと考え、体積最小クラス(体積600cc未満)で、業界未踏の変換効率96%をめざすことにしました。当社が培ってきた電源技術を集中投入すれば可能だと考えての決断です。
― 電源の基本的な役割とは何ですか?
まず、「交流(AC)」と「直流(DC)」の説明をします。交流は電圧と電流の向きと大きさが周期的に変化(電流の向きは正負交互に極性が変化)します。より遠くへ低損失で電力を送るのに適しているため、発電所から交流で送電されます。対して、直流は電圧と電流の向きと大きさが一定で、サーバーを含む電気製品は、直流で動くものがほとんどです。交流は波のように電圧が上下し、ピークが100Vを超える高電圧になりますが、CPUなどの電子回路は低電圧の直流でなければ動かないため、電子回路が用いられる電気製品は、直流の低電圧に変換する必要があります。
すなわち、電源は、コンセント(系統)から受け取った電気を、交流から直流に変換し、CPUなどの各回路に出力するとともに、供給先の電子回路に適した電圧調整も同時に行います。さらに、正しく動作するよう安定的な供給を行うという役割もあります。
― では、GaNを使用するとどうして消費電力が低減するのですか?
電源における交流から直流への変換と電圧の調整は、(半導体を用いた)スイッチングデバイスが、スイッチのオン・オフを繰り返すことで行っています。スイッチがオン・オフする度に、回路の中では目に見えない放電が発生していて、これがスイッチング損失になります。つまり、この損失を小さくすればするほど、効率よく電力変換できることになります。また、高速にスイッチングができるとより効率アップとなります。このスイッチングデバイスの半導体に、従来はシリコン(ケイ素)が用いられていましたが、電気的、物理的特性に優れ、高速スイッチングが可能なGaNを用いれば、損失をより小さくできるんです。
― 他にもGaNを使用することによるメリットはありますか?そのために開発した技術を教えて下さい。
GaNには、上述のスイッチング損失削減以外にも大きなメリットがあります。
一般的に普及している半導体は、一方向にしか電気を流すことができないという特性があります。そのため、正負交互に極性が変化する交流電力を、事前に同一極性(同一方向)となる直流電力に変換する「整流回路」が必要ですが、この「整流回路」において損失が発生しています。
一方、GaNを用いたスイッチングデバイスでは、電流方向に関係なく高速スイッチングが可能(シリコンデバイスには無い性能)で、電流の方向を無視できるため、整流回路を無くす(=整流回路での損失を無くす)ことが可能となり、大幅に効率化できます。
しかし、これを実現するには、GaNの特性を活用できる回路(TP-PFC回路)を電力入力部に採用する必要がありますが、今度はその回路特有のノイズや制御上の課題が出てしまいます。
当社は、その課題を克服し、制御電力をも低減するために小型・低損失制御回路を新開発しました。これは、高効率実現の肝となる制御回路の技術で、現在、特許を申請しています。
他にも、高電圧を低電圧に変換する変圧器(トランス)を構成している電線の形状を改良し、低損失化(放熱性向上)を実現するなど、さまざまな回路の工夫も加え、世界最高効率96.5%を実現しました。詳しい内容は、NEDOのサイトに紹介されていますので、ご覧ください。
― 最小体積という制限がある中、苦労したのではないですか?
はい。最先端のサーバー用電源を体積最小クラスで実現するため、小さくするだけでなく、効率や安定動作、ノイズ対策、熱の問題など、これら全てのバランスを取りながら、最高性能が出せるような回路を考えることが大変でした。当社には、回路を安定動作させる上で不可欠なノイズ対策や、熱問題を解決する独自技術があり、従来から持っていたこれらの強みを生かすことで克服することができたと考えています。
― 開発の結果と今後の展開を教えてください。
本開発品では、2kWサーバー用電源において、体積最小クラス(600cc未満)で、目標を超える最高効率96.5%を実現しました。これは、開発前の変換効率94%の一般的な製品に比べ、1kWで5年連続稼働した場合、1台当たり1,100kWh程 の消費電力削減※5となります。
また、NEDOでは、「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」による支援終了後の委員会審査で一定以上の評価が得られたテーマを表彰しており、本開発は、最高位にあたる2021年度「NEDO省エネルギー技術開発賞」理事長賞(最優良事業者)を受賞しました。この技術は、それほど高く期待されているのだと感じています。
現在は、早期の事業化をめざして準備を進めています。また、効率の目標値を97%へ引き上げるとともに、開発品(体積573cc)よりさらに小型サイズ(同544cc以下など)の電源開発も検討中です。
- ※5 1kwを1時間使用すると1kwh。1kwh×24時間(1日)×365日×5年=43,800kwh
- (96.5%-94%)×43,800kwh≒1,100kWh
― 最後に今後の抱負をお聞かせください。
昨今、カーボンニュートラルが提唱され、省エネの重要性がますます高まっています。当社が持つ、電力変換を高効率化するパワーエレクトロニクス技術は、カーボンニュートラル実現に向けて必須の技術分野であり、これからも、さらなる社会貢献ができればと考えています。
― ありがとうございました。
当社の新たな経営方針として、「カーボンニュートラルへの貢献」を挙げています。最初に思い浮かぶのは再生可能エネルギーをもたらす太陽電池であり、「電源」と聞くと、地味に感じられるかもしれません。しかし、今回紹介した技術は低炭素社会の実現に寄与する重要な技術です。ぜひ、シャープのパワーエレクトロニクス技術にご注目ください
(広報H)
<関連サイト>
■受賞・表彰 2021年度「NEDO省エネルギー技術開発賞」で最高位にあたる理事長賞、優良事業者賞を受賞
■ニュースリリース(NEDO)
「NEDO省エネルギー技術開発賞」として13テーマを表彰
GaNパワーデバイスを用いた高効率サーバー用電源の開発
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