シャープのディスプレイのコア技術「IGZO(イグゾー)」とは?
2020年4月14日
みなさんは「IGZO(イグゾー)」ってご存知ですか? IGZOは、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)により構成された透明な酸化物半導体で、従来、シリコン等の半導体ではできなかったことを可能にする、革新的なテクノロジーです。これからの暮らしを劇的に進化させる大きな可能性を秘めており、当社ディスプレイのコア技術になっています。今回は、このIGZOについて、研究開発の担当者に聞きました。
<なぜIGZO開発を進めたのか?>
液晶ディスプレイをきれいな映像で表示させるためには、画面の点単位で電流を流す必要があり、この電流のスイッチオン/オフをきめ細かく制御してディスプレイを駆動するのがトランジスタです。現在、液晶ディスプレイには薄膜トランジスタ(以下TFT)が使われていますが、このTFTを構成する半導体の材料として、以前はアモルファスシリコン、つまり非晶質シリコンが多く使われていました。
ディスプレイやCPUなどの進化にともない、大型化や処理の高速化によって消費電力が上がる一方、スマートフォンやノートパソコンなどのモバイル製品では、バッテリー(電池)が長持ちする製品が欲しいというお客様の要望が高まっています。こうした相反する要素をともに満たすため、目を付けたのがIGZOです。IGZOを採用したディスプレイは、アモルファスシリコンに比べ大幅な低電力化が可能で、ほかにも多くのメリットがあります。開発は簡単ではありませんでしたが、シャープが長い年月をかけて培ってきたディスプレイの開発技術によって、2012年3月、世界で初めて、「ディスプレイを駆動するTFTに酸化物半導体IGZOを用いた、スマートフォン用液晶パネルの量産化」を実現しました。以降、その様々な優れた特性を活かして、なめらかで高精細な映像を映し出す液晶テレビや、スリムでスタイリッシュなデザインのノートパソコンなど、多くの製品に採用されています。
<IGZOの特性・優位性は?>
その優れた特性とは何でしょうか?
IGZOを用いたTFTでは、高いオン電流と低いオフ電流を両立させることができます。
固体物質のなかでの電子の流れやすさを示す数値として「電子移動度」が用いられますが、当社のIGZOは、この電子移動度がアモルファスシリコンに比べ約30倍※の高さです。この数値が高いほど、電流のスイッチオン/オフを高速に制御できるため、ディスプレイの高速駆動が可能になります。これを高いオン電流と呼んでいます。
そして、IGZOは低いオフ電流も実現しています。アモルファスシリコンでは、本来流れない場合でも電流が漏れやすいという欠点があり、1秒間に何十回もこまめに電圧をかけないと画面の輝度が下がってしまい、表示品位が低下します。そのため、静止画を表示する際も、短時間に何度も電圧をかけて同じデータに書き換える必要があり、電力消費の要因となっています。一方、IGZOは電流が漏れにくいため、無操作時や静止画表示の際、一定時間、データの書き換えをせずに画像を保持できる(電流をTFTに流さなくてもよい)分、消費電力を大幅に減らすことが可能です。この特性により、IGZOのオフ電流はアモルファスシリコンの約1/1000になります。
※:第5世代IGZOとアモルファスシリコンとの比較です。当社IGZOは常に進化しており、現在では第5世代IGZOとして開発・商品化を行っています。
<IGZO採用ディスプレイの特長・優位性とは>
こうした特性を持つIGZO技術をディスプレイに採用すると、以下のメリットが生じます。
① 映像がなめらか
電子移動度が高いため、高周波駆動(=高速駆動)が可能です。この駆動速度の単位がHz(ヘルツ)で、数字が大きいほど1秒間当たりの映像のコマ数が増えます。すなわち、映像をなめらかに表示できます。
② 高精細な画面表示
加えて、電子移動度の高さが、TFTの小型化につながりました。TFTが小さくなった分、ディスプレイ画素内の光を遮る部分が減るので、1画素あたりの透過量がアップ(=高開口率化)します。これにより、バックライトの強さが同じでも、その分、明るさがアップします。また、開口率が高いということは、一つひとつの画素が小さくなる高精細化を進めても、画面の明るさを維持することができます。
③ 低消費電力でちらつきも少ない
低いオフ電流で説明しましたように、静止画を表示する時には、こまめに画面の書き換えが不要な低周波駆動が可能です。加えて、上記②の通り、開口率が高く、その分バックライトの光量をセーブできることから、省エネ(=低消費電力)になります。
特に、バッテリーでの長時間駆動が求められるモバイル機器では、低消費電力は不可欠です。この特性を活かすべく、CPUメーカーとも綿密に駆動に関する協業を進め、24時間バッテリー駆動できる1日充電フリーのノートパソコン用IGZO液晶パネルも開発しました。
また、アモルファスシリコンは、こまめに電圧をかけないと画面の輝度が下がり、表示品位が低下すると説明していますが、この時に、どうしても画面のちらつきが出てしまいます。つまり、液晶にかかる電圧は、トランジスタのオン状態でTFTを流れた電気量で決まりますが、トランジスタのオフ状態では、この蓄えられていた電気が漏れることによって、液晶にかかる電圧が変化し、明るさ(輝度)の変化として認識されることで、ちらつきなど表示品位を悪化させる要因となります。しかしながら、IGZOはオフ電流が低く電流が漏れにくいため、液晶にかかる電圧の変動が少なく、画面のちらつき(輝度のバラツキ)が少なくなります。高速駆動が得意な半導体として、低温ポリシリコンもありますが、オフ電流が高く電流が漏れやすいため、短い周期で定期的に表示データの書き換えが必要です。そのため、低消費電力やちらつきについては、低温ポリシリコンよりIGZOに優位性があります。
④ 高いデザイン性
ディスプレイの額縁部分には、ゲートドライバと呼ばれるTFTの駆動タイミングを制御するICが必要です。パソコン向けの液晶パネルでは、当初、このゲートドライバICの部品をガラス基板上に実装していたのですが、IGZOの高いオン電流(電子の高移動度)の特長を活かすことで、IGZO-TFT(IGZOを用いたTFT)の形成と同時に、ガラス基板にゲートドライバ回路を作製することが可能となりました。ガラス上からドライバICをなくし、さらに回路を小型化したことで、狭額縁化することができ、近年主流になっている、スリムかつスタイリッシュなパソコンのデザインを実現できました。そうしたパソコンは当時、大きな話題になり、新しいトレンドとなりました。
さらに、ゲートドライバを画素内へ配置することにより、パネル自体を自由な形状にデザインすることが可能になりました。当社では、自由な形状のディスプレイをフリーフォームディスプレイ(以下FFD)と呼んでいます。
⑤ 高い生産性
ディスプレイはマザーガラスと呼ばれる大きなガラス基板から複数の枚数を作ります。すなわち、マザーガラスのサイズが大きいほど、一度に生産できるディスプレイの枚数が増え、製造原価も下がります。当社には中小型サイズディスプレイの液晶工場としては最大級のG8(2,160×2,460mm)というサイズのマザーガラスを用いた工場があり、優位性があります。
<IGZOの進化>
2012年3月に量産化したスマートフォン用のIGZO液晶パネルを皮切りに、80V型8K 液晶テレビや240Hzの高周波駆動のゲーミングモニター、パソコン向けモニターなどの製品、さらに、開発を進めている車載向けFFDやHMD(Head Mounted Display)向けの1,000ppi以上の超高精細液晶ディスプレイに至るまで、様々なアプリケーションに使われています。
IGZOを導入しているような高品質なパネルを安定して生産することは、容易ではありません。何百もの評価試験や、生産ラインの監視体制強化など、開発、設計、プロセス技術、生産など、多くの部門の協力でIGZOを進化させてきました。現在では、第5世代IGZOとして開発・商品化を行っています。電子移動度は、初代IGZOから約5倍も向上させています。
<今後の展開・・・有機ELディスプレイにも>
以前のシャープブログ(「シャープが有機ELで目指すもの」)でも、ご紹介しましたように、IGZOは液晶だけでなく有機ELディスプレイにも応用可能です。例えば、日本放送協会(NHK)と共同開発し、昨年11月に発表したローラブル(巻取型)「30V型4Kフレキシブル有機ELディスプレイ」にもIGZOの技術を採用しています。また、IGZOは電流が漏れにくいため、X線の微妙な変化量を電流として高精度に読み取ることができます。その特性を活かし、ディスプレイ以外の分野でも、X線センサ等、将来を見据えた開発も進めています。
当社は、今後もディスプレイのコア技術IGZOの開発を進めます。それにより、人と情報をつなぐ“窓”となるディスプレイを進化させ、お客様にさらなる新しい価値を提供してまいります。
(広報担当:H)
<関連サイト>
■シャープブログ
シャープが有機ELディスプレイで目指すもの —フレキシブルディスプレイで新たなライフスタイルを提案—
「Inter BEE 2019」のNHK様のブースにて、『ローラブル(巻取型)』4K有機ELディスプレイが初披露
■ニュースリリース
スマートフォン AQUOS R5G を商品化
30V型4Kフレキシブル有機ELディスプレイを開発
第5世代IGZOを開発 ~モバイルから大型パネルサイズまで全面展開~
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